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第37回日本トキシコロジー学会学術年会報告
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第37回日本トキシコロジー学会学術年会報告・御礼
年会長 安仁屋 洋子(琉球大学医学部)
第37回日本トキシコロジー学会学術年会の開催に際しましては、会員各位ならびに関係者各位のご協力により、大過なく終了することができました。ここに心から御礼申し上げます。以下に学術年会の概要を報告致します。
下記は、年会の模様です。
※第37回日本トキシコロジー学会学術年会HPフォトギャラリーから、 学会のスナップ写真をダウンロードできますのでご確認ください
1.会 期
2010年6月16日(水)~18日(金)
(市民公開セミナーは6月18日)
2.会 場
沖縄コンベンションセンター
3.年会の重点テーマ
トキシコロジー:人の健康と安全への貢献
4.特別企画
・特別講演:2
・年会長招待講演:1
・教育講演:2
・シンポジウム:8
・ワークショップ:7
・パネルディスカッション:1
・特別セミナー:1
・市民公開セミナー:1
5.一般演題
口演:53題
ポスター:213題(内 優秀研究発表賞応募演題50)
6.年会参加者
1077名
7.市民公開セミナー参加者
174名
8.懇親会参加者
428名
9.協 賛
企業展示出展:58社,ランチョンセミナー:12社,イブニングセミナー:2社,広告掲載:20社
第37回日本トキシコロジー学会学術年会 トピックス報告
特別セミナー「女流研究者からのメッセージ」
本年度学術年会は、6月16日(水)より18日(金)の3日間にわたって、沖縄コンベンションセンターで開催された。年会長は琉球大学医学部の安仁屋洋子先生が務められ、第22回の藤井儔子先生に次いで、女性としてお二人目であった。
沖縄という遠方の地での開催ということであり、安仁屋年会長は参加者が集まるのかという心配をされておられたが、当初の心配をよそに、梅雨明け間近の沖縄には1000名以上の参加者が集結した。年会長招待講演(1題)、特別講演(2題)、教育講演(2題)、各賞受賞者講演、シンポジウム(8題)、ワークショップ(7題)、パネルディスカッション、口演(53題)、ポスター発表(213題)、ランチョンセミナー(12題)、イブニングセミナー(2題)、58企業の展示、市民公開セミナーなど、盛りだくさんの内容に加え、特別セミナーとして「女流研究者からのメッセージ」が企画された。今回はこの特別セミナーに焦点を当てたい。
本特別セミナーは、女性年会長である安仁屋先生ならではの企画である。先生のお言葉を借りるならば、日本では、歴史的職業観・女性のライフスタイル等の制約により自然科学分野の女性研究者は諸外国と比べて多くはなく、そのような中で、薬理学・毒性学分野で著明な業績を挙げられた女流研究者をお招きして、会員の方へのエールを送りたいという趣旨の基に企画されたものである。今回お招きした先生は、神戸大学名誉教授の田中千賀子先生と、NIH・米国ロシュ等で活躍された佐藤洋子先生のお二人である。座長は安仁屋先生と堀井郁夫先生が務められた。
田中先生は、「私の研究エポック:神経情報伝達システムの薬理学」という演題で講演された。はじめに、女学校時代の生物研究会において、比叡山延暦寺根本中堂の床下で蟻の生態観察を体験されたことが生物学との出会いであった。その後、男性社会であった京都大学医学部に飛び込み、女子医学生は臨床女医となるのがほとんどであったその時代に基礎医学研究への道を選ばれ、今日までの業績に繋げられている。大きな業績の1つに、現在の薬理学では普通に行われている形態学的評価を、生理学が中心でようやく生化学的手法が取り入れられようとしていた時代にいち早く導入されたことがある。この手法により神経伝達物質の組織化学を薬理学領域におけるたいへん価値のある研究方法論として確立された。さらに細胞間伝達物質のご研究から、パーキンソン病や難治性起立性低血圧症のノルアドレナリン前駆物質療法、細胞内情報伝達系のご研究からPKCを標的とする薬理研究の先鞭をつけられた。
佐藤先生は、「私の職業人生を振り返って:薬物動態と毒性発現との関わりの中で」という演題で講演された。東北大学薬学部卒業後に勤められた会社の臨床試験で、肝毒性を経験されたことが職業生活の原点であるとのことであった。当時、国内外でサリドマイドによる薬害が社会問題として認識されはじめた時期であり、このようなことがきっかけで毒性予測の仕事がしたいと決意され大学での研究生活に入られた。さらに毒性作用機序の研究のためNIHに留学され、Halothaneの活性代謝物と毒性発現に関する研究で、大変な成果を挙げられた。その集大成として、NIH後は製薬会社における安全性評価をご経験された。
以上のお二人のご発表は熱気を帯びたものとなり、当初の時間よりかなり時間がオーバーしたにもかかわらず、初日の最終講演の会場には多くの方々が残っていただけたのには感動した。今回、会場に足を運んでくださった方々の生の声を会員の皆様方にお伝えしたいと思い、熱心に聴講されていたお二人の女性研究者に本セミナーの感想を伺ったので以下に紹介したい。
はじめに、大阪薬科大学・薬品作用解析学研究室の多田羅絢加大学院生より以下の感想をいただいた。
“私は医薬品の研究・開発に興味があり、多くの同級生が進む薬学部の6年制ではなく4年制課程を選択し、現在、大学院修士課程の院生として研究を続けている。研究を始めてまだ2年目であるが、いざ院生となって自ら研究を行うと色々と大変なことも多く、この先、続けられるか不安になることもあった。そんな中、大先輩である女流研究者の先生方のお話を直接聞くことができ、大変勇気づけられた。先生方が研究を始められた頃は完全なる男性社会であったが、現在では女性にも研究者の道が開かれてきた。これは、先生方が先駆者となって研究を続け、多大な成果を収め、業績をあげてこられたおかげだと思う。「男性は外に出て働き、女性は働かずに家を守る」と男女の役割が決められていた時代に、研究者としての道を志した先生方の生き方には、芯の強さが感じられ、尊敬の念とともに強い憧れを感じた。また、先生方がお話されている姿を拝見して、研究に対する情熱を感じた。研究内容について話されている先生方は非常に生き生きとされており、研究がお好きな様子がよく伝わってきた。私も自分の研究テーマについて、とことん考え尽くし、愛着がもてるようになりたいと思った。大学での研究生活はまだまだ続き、その中で大変なこと、苦しいことがたくさんあると思うが、先生方のお話を思い出し、めげずに研究を続けていきたい。今回の先生方のお話から、自分のなりたい研究者像のようなものが少し見えてきた気がした。”
次に、大日本住友製薬(株)安全性研究所 安全性研究部の坂東清子上級研究員より以下の感想をいただいた。
“田中千賀子先生が執筆された「New薬理学」を教科書として薬理学を学んだ私にとって、日本を代表する女流研究者である田中千賀子先生、佐藤洋子先生は憧れであり、先生方のこれまでの研究生活について拝聴する機会が得られる今回の特別セミナーをとても楽しみにしていた。お二人は、順風満帆の研究生活を送ってこられたとばかり思っていたが、実際には当時の一般的価値観とのギャップの中で大変な思いをされながら、研究を続けてこられたと知り、驚きを隠せなかった。今の我々の価値観から考えると想像を絶するような逆境の中でも、心の底から研究を楽しみ、ご自身の意志をしなやかに貫いてこられた凛とした芯の強さに深い感銘を受けた。先生方のお話の中で、私にとって一番印象に残ったことは「出会い」という言葉だ。恩師や同僚との出会い、新たな実験結果との出会い、そしてその結果がさらに次の出会いを導いていくという素敵な「出会い」の連鎖が、お二人の研究生活を支え、切り開いていく原動力だったのではないか。私も研究の楽しさと「出会い」を糧にこれからも研究に携わっていきたいと心を新たにした。”
以上のように、会場で話を聞いておられた女流研究者から、たいへん素晴らしい感想を頂戴することができた。日本トキシコロジー学会として、学術的な講演もさることながら、今回のような先輩・成功者の声を聞くという企画も、特に若い会員によっては印象深い、価値のあるものになると思う。今後とも純粋な学術的講演に留まらず、色々な企画を考えたいと思う。講演の終わりに座長で年会長の安仁屋先生より、“本当にこのセミナーを企画してやってよかった”とのお言葉が出たときは、私も嬉しさを隠しきれなかった。
最後に、会員の生の声はテーマがテーマだけに女性の会員に限定してしまったことについてはお許しを願いたい。また、ご協力いただけたお二人の日本トキシコロジー学会会員の方にはこの場を借りて御礼申し上げたい。
日本トキシコロジー学会 学術広報委員会
学術小委員長 山田久陽