学会概要/理事長挨拶
第14代理事長挨拶
平成28年6月30日に第14代の理事長に就任し、2年間にわたり日本毒性学会の運営を担当させていただくことになりました。
日本毒性学会の歴史を紐解くと、その前身は1975年に発足した日本毒作用研究会であり、1981年には学会となり、名称も日本毒科学会(The Japanese Society of Toxicological Sciences)と改められました。その後、1997年に日本トキシコロジー学会(The Japanese Society of Toxicology)に改称され、さらに、2012年に日本毒性学会(英名は同じ)となり、現在に至っています。学会設立の翌年(1982年)の会員数は1,083名であり、設立当初からそれなりに多くの会員が所属していたわけですが、現在の会員数は約2,600名にのぼり、毒性関連学会としては米国毒性学会(SOT)に次いで世界で2番目に大きな学会にまで成長してきました。
毒性学は人間が摂取する食品や化学物質などが健康に与える影響を評価・解明し、さらにその作用機構などを明らかにすることによって人間の健康の維持・増進に寄与することを目的とした学問です。人類が健全かつ持続的な発展を遂げていくためには、その生存基盤である食を通じた健康の維持や食の安全への取り組みが不可欠です。一方、本学会会員の約70%が製薬会社などの民間企業に所属していることからも明白なように、医薬品の安全性評価が本学会の最も重要な研究対象になっています。医薬品が人間の健康に与える影響(副作用など)を高い精度で評価することによって、安全な医薬品の効率的な創生が可能となります。本学会では毒性試験の責任者および評価者等の質を高めることを目的として、毒性学に関する十分な知識と経験を有する会員に“認定トキシコロジスト (Diplomate of the Japanese Society of Toxicology)”の称号を授与していますが、本認定制度も適切で効率的な安全性評価の実施および医薬品創生に大きく貢献しています。また、環境汚染物質等の化学物質が人間の健康に与える影響を明らかにすることも本学会の重要な役割の一つです。かつて我が国で水俣病やイタイイタイ病が発症しました。当初は原因が不明であったため、これらの疾病は難病または奇病と呼ばれていましたが、その後、メチル水銀およびカドミウムによる環境汚染がそれぞれの原因であることが明らかになりました。現在難病とされている原因不明の疾病の中に化学物質によって引き起こされているものがある可能性は否定できません。また、毒物による中毒や自殺・他殺事件も比較的頻繁に起こっており、身近に存在する毒物に関する注意喚起も、専門家集団である本学会の使命といえます。
近年、多剤併用による相互作用の問題など医薬品の安全性評価は複雑さを増しつつあり、さらに、化学物質の環境汚染は地球規模で進展していて世界的な社会問題になっています。このような状況の中で、毒性学上の課題に適切に対応していくためには学問領域を越えた協力体制による新たな知見の創出と人材の育成が今後ますます重要になります。これらの課題に適切に対応しつつ、人間の健康を守るうえで必須の学問である毒性学を更に発展させるべく研究・教育の推進および普及に全力で取り組んでいきたいと考えております。
2016年6月 日本毒性学会理事長 永沼 章