一般社団法人日本毒性学会,THE JAPANESE SOCIETY OF TOXICOLOGY

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学会概要/理事長挨拶

第16代理事長挨拶


 2020年7月1日に第16代日本毒性学会理事長を拝命いたしました。どうぞよろしくお願い申し上げます。

 毒性学は、あらゆる経路で身体に入り込む種々の外来性物質(xenobiotics)、特に文明活動が人々に有益であると考えて作り出す新規の物質、が引き起こす生体反応を明らかにし、外来性物質からの被害を予測して未然に防ぐ学問であり、最終目標を「人の安全」とするところの、純粋科学、応用科学及び社会科学の複合体と考えられます。

 さて、私が前回、理事長を仰せつかった2012年は、2011年3月の震災とそれに続く放射能禍問題が残る時期に当っておりました。放射線に関するリスク評価とリスク管理の在り方、集団リスクと個々人が感じるリスクの差、安全神話、低線量ホルミシス、「ゼロリスク」精神と安全安心問題などが、その後の毒性学の社会科学的課題となると考えられた時期でありました。遠藤仁先生の記された「学会の使命・概要」を引用し、「学」、「産」、そして「官」が合流し成長してきた本学会は、「医」や「社」との連携を進める必然性を有する立場に置かれていると考えた次第です。お陰様で、皆様のご理解と多大なご協力により「医」との連携強化の一つの成果として、日本中毒学会との覚書交換、学術年会における合同セッション、大阪における学術年会の同時同所開催、JTSが日本中毒学会の英文雑誌として中毒学研究論文を掲載すること、日本中毒学会の国際毒性学連盟(IUTOX)への復帰、などが、果たされました。

 今回は、コロナ禍の最中に理事長を仰せつかりました。テレビ報道から得た知識の範囲内ですが、科学者が行政の責任を負わされる事態が繰り返されておりました。科学者は情報とその解釈を発信するリスク評価までの立場を担い、リスク管理は本来、別の立場の人間が責任を負って行うものであるのですが、「専門家であるから」との理由で、1人が2役を強いられるのが変わらぬ現状の様であります。第84回日本循環器学会学術集会 記念対談 京大・山中 伸弥氏×北大・西浦 博氏https://www.youtube.com/watch?v=BIinba7Rd58&feature=youtu.be(2020年10月31日まで視聴可)の冒頭2分50秒ごろ~7分ごろにも、これらの問題が指摘されておりました。毒性学の分野、特に化学物質のリスク管理については、その様な大事件が起こらないことを祈っておりますが、その昔、過酸化水素に発癌性があることを発表した研究者が社会的に怖い思いをしたという話をご本人から聞いたことを思い起こします。

 日本毒性学会の定款には、『(目的) 第2条 本会は毒性領域の研究の進歩発展を図ることを目的とし、次の事業を行う。1.学術集会の開催、2.会誌の発行、3.トキシコロジストの教育及び資格認定、4.その他上記の目的を達成するため必要な事業』 とあります。

 定款に鑑みて日本毒性学会の社会貢献の様態を考えますと、それは毒性領域の研究活動として推進するものである事が望まれます。認定トキシコロジストは、現実的に社会貢献を含むと考えられますし、指針値小委員会の活動は社会貢献に向けた一つのチャレンジとなっています。社会貢献活動を研究活動の範囲内に留め、リスク管理とは一線を画す必要があるかもしれません。リスク評価者の意図が齟齬なくリスク管理者に伝わるように毒性情報を整理調整する学問、即ち「調整毒性学Toxicology in Concert with Risk Management;Concert Toxicology」という研究活動を確立することが提案されます。これには、基礎研究、応用研究、その咀嚼の仕方、取りまとめ方、といった幾つもの段階が必要であり、丁度、教育委員会が今後の課題として掲げている(1)「トキシコロジー」改訂(2)モノグラフ(毒科学の基礎と実際)へ向けた準備(3)毒性用語検討・トキシコロジー用語辞典(4)毒性評価値設定講習会(指針値小委員会と協議)、学術広報委員会が課題として掲げているホームページ上の用語集の発展的改定、などが、そして、従来からの活動、IUTOX、ASIATOX、SOTとの連携、KSOTとの連携、日本学術会議・毒性学分科会、部会活動、連携学会との連携、国内外との連携の拡大、などが、いずれも重要な基盤となります。

 熊谷前理事長が築いてくださった強固な経済基盤と国際化の進展の上に、学術研究活動をより一層発展させることで、「毒性領域の研究の進歩発展を図ることを目的」としつつ、これを基盤としたゆるぎない立場をもって「社」、即ち、社会貢献をも更に推進できる日本毒性学会を皆様と共に構築していければと存じます。改めまして、ご支援のほど、お願い申し上げます。

2020年7月28日 日本毒性学会理事長 菅野 純

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