一般社団法人日本毒性学会,THE JAPANESE SOCIETY OF TOXICOLOGY

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毒性学コミュニケーション/毒性研究者紹介

毒性研究者紹介

第49回学術年会

優秀研究発表賞受賞者
石川 良賀 京都大学大学院工学研究科 都市環境工学専攻 環境衛生学講座
瀧本 憲史 国立医薬品食品衛生研究所 病理部
服部 篤紀 塩野義製薬株式会社 創薬開発研究所 安全性研究
石田 萌 中外製薬株式会社 トランスレーショナルリサーチ本部 安全性研究部
鈴木 将 花王株式会社
学生ポスター発表賞受賞者
生野 雄大 大阪大学大学院薬学研究科 毒性学分野
森本  睦 岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科 薬効解析学
佐藤 拓海 静岡県立大学大学院 薬食生命科学総合学府 衛生分子毒性学分野
橋本 芳樹 東京大学大学院薬学系研究科 分子薬物動態学教室

第48回学術年会

優秀研究発表賞受賞者
水野 忠快 東京大学大学院薬学系研究科分子薬物動態学教室
平野 哲史 富山大学 研究推進機構 研究推進総合支援センター 生命科学先端研究支援ユニット 分子・構造解析施設
富山大学 学術研究部 薬学・和漢系 ゲノム機能解析研究室
田中 美樹 広島大学 大学院統合生命科学研究科 統合生命科学専攻 生命医科学プログラム
向井 美穂 塩野義製薬株式会社 創薬開発研究所 安全性研究
相澤 聖也 ライオン株式会社 研究開発本部 安全性科学研究所
学生ポスター発表賞受賞者
佐々木 貴煕 東北大学大学院農学研究科動物生殖科学分野
山田 侑杜 東北大学大学院薬学研究科 衛生化学分野
池山 佑豪 千葉大学大学院 医学薬学府 生物薬剤学研究室

第47回学術年会

優秀研究発表賞受賞者
星  尚志 東北大学大学院薬学研究科 代謝制御薬学分野/
東北医科薬科大学薬学部 環境衛生学教室
齊藤 洋克 国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部
青木 重樹 千葉大学大学院薬学研究院 生物薬剤学研究室
久我 和寛 武田薬品工業株式会社
学生ポスター発表賞受賞者
中野  毅 東京薬科大学 薬学部 公衆衛生学教室
衛藤 舜一 大阪大学大学院薬学研究科 毒性学分野
坂橋 優治 大阪大学大学院薬学研究科 毒性学分野


所属 京都大学大学院工学研究科 都市環境工学専攻 環境衛生学講座
名前 石川 良賀
受賞タイトル 粒子状物質の曝露が新型コロナウイルスの細胞内侵入に及ぼす影響

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Q1 今回の受賞研究の内容、明らかにされた成果をご紹介ください。
PM2.5などの大気中の粒子状物質が、新型コロナウイルス感染症の発症率を増加させるという疫学調査結果が報告されていますが、そのメカニズムは明らかにされていませんでした。本研究では、新型コロナウイルスが感染経路として利用しているACE2とTMPRSS2というタンパク質に着目し、粒子状物質をマウスや培養細胞に曝露した際に、これらのタンパク質の発現や機能が亢進することを明らかにしました。これはすなわち、粒子状物質の曝露が新型コロナウイルスの細胞内侵入口を拡大することを意味しています。
Q2 大学等では、どんな研究をされていましたか?/していますか?
博士課程時代は、細胞が放出するナノ微粒子である「細胞外小胞(エクソソームとも呼ばれます)」を利用したドラッグデリバリーシステムの開発を行っていました。
Q3 毒性研究を始めたきっかけは何ですか?
学位を取得し、現職に就いて初めて本格的に毒性研究に携わるようになりました。これまでもいわゆる生物・医学系の分野で研究していたものの、どちらかといえば“治療”や“毒性が少ないマテリアルの開発”のようなことが王道である分野にいたため、最初はすごく新鮮に感じました。
Q4 始めた時の感想と現在の印象をお聞かせください。
毒性研究という字面だけを見ると、いわゆる“毒物”の様な物凄く危ない物質ばかりを扱うのかなという素人ゆえの謎の偏見を持っていました。しかし実際は全くの逆で、PM2.5が花粉症などのアレルギーを悪化させるように、命に直結するような毒性がなくとも、我々の健康やQOLに影響を与えうる物質こそが研究対象であることにまず驚きました。
Q5 これまで毒性研究で面白かったこと、大変だったことは何ですか?
実環境中に存在する粒子状物質は、コアとなる粒子だけでなく様々な化学物質や生物成分が付着した混合物であるため、どのような成分が影響を与えるのか解釈が難しいことが挙げられます。
Q6 今、興味を持っているもの、また将来の夢は何ですか?
プロテオームなどのオミクス解析に興味があります。
Q7 毒性研究者としてのご自身を支える座右の銘や書籍、人物がいらっしゃればご紹介ください。
学生時代に実験の手ほどきをしてくださった師匠からの一言で、「遠回りが実は近道」を常に心がけています。(イチロー選手も全く同じことを言っていました。笑)
Q8 恩師/恩人(敢えて1人)に一言お願いします。
学生時代の指導教官であり、現職を選択するきっかけをくださいました京都大学大学院 工学研究科の秋吉一成先生にこの場をお借りして御礼申し上げます。
Q9 後輩に一言お願いします。
真摯かつ謙虚に結果と向き合い、コミュニケーションを大切に、“本質的に面白いこと”を追究していきましょう!


所属 国立医薬品食品衛生研究所 病理部
名前 瀧本 憲史
受賞タイトル Acetamideが誘発するラット肝細胞における大型小核の形成機序

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Q1 今回の受賞研究の内容、明らかにされた成果をご紹介ください。
本研究では、acetamide(AA)のラット肝発がんの起点と考えられる大型小核の形成機序を明らかにする目的で、AA単回投与後のラット肝臓の経時的な変化について病理学的手法を用いて解析しました。その結果、大型小核の出現以前に、二核肝細胞では核膜異常に伴う一方の核の小型化が生じることが明らかになりました。従って、AA誘発の大型小核は分裂異常を介してではなく二核肝細胞から生じることが示唆されました。
Q2 大学等では、どんな研究をされていましたか?/していますか?
所属研究室では生後においても神経新生が行われる海馬歯状回に着目し、妊娠期の母動物を介した化学物質の発達期曝露が児動物の神経新生に及ぼす影響について研究をしておりました。
Q3 毒性研究を始めたきっかけは何ですか?
大学で獣医学を学んでいく中で一番興味を持った分野が病理学であり、所属した病理学研究室において毒性病理学を主とした研究が行われていたことがきっかけとなります。
Q4 始めた時の感想と現在の印象をお聞かせください。
臨床系の研究室とは異なり、治療や開発に直結することの少ない研究といった印象でした。私は社会人ドクターとして国立衛研にて研究をしておりますが、今では薬に限らず食品や環境汚染物質など、あらゆる物質がヒトに与える影響を見積もるために欠かすことの出来ない分野であると認識しています。また、毒性発現の動物種差、構造的に類似した化合物であっても毒性発現に違いが生じる点などが非常に興味深いと思っております。
Q5 これまで毒性研究で面白かったこと、大変だったことは何ですか?
今回の研究のように過去に得られた結果から新たに仮説を立て、それを支持する結果が得られたときには毒性研究の面白さを感じることが出来ます。また、学会発表などで他の方が自分の研究内容に興味を持って聞いて下さる時も研究を続けて良かったと思える瞬間です。大変だったことはin vivoで生じる変化をin vitroに落とし込むことが出来なかったことです。両者のギャップを埋めるための何かを現在模索しているところです。
Q6 今、興味を持っているもの、また将来の夢は何ですか?
AIを用いた病理診断に興味をもっております。標本上の所見の有無の判断や所見の抽出が可能になれば、薬理試験や毒性試験の病理評価の時間短縮さらにはより客観的な評価につながることが期待できます。私は現在、製薬会社に勤めており、将来は自身が携わった化合物が新薬となって患者さんの元に届き、その後の患者さんの人生を少しでも豊かにする手助けができればと思っています。
Q7 毒性研究者としてのご自身を支える座右の銘や書籍、人物がいらっしゃればご紹介ください。
出典元は覚えていないのですが「難がなければ無難な人生」という言葉があります。最初にこの言葉を見たとき、苦難や困難は辛いものだけどそれが全くないと無難になってしまうのだなと妙に納得した覚えがあります。研究も苦難・困難の連続ですが、その先にある新たな発見の喜びを目指して日々の研究に取り組んでいます。
Q8 恩師/恩人(敢えて1人)に一言お願いします。
東京農工大学獣医病理学研究室の渋谷淳教授には学生時代から現在に至るまで大変お世話になっております。私が研究室で飲みつぶれてしまい、先生に自宅まで送っていただいた御恩も含めて感謝してもしきれません。先生にはこれから少しずつでも恩返しができるようにしていきたいと思っております。
Q9 後輩に一言お願いします。
研究がうまくいかないときは一人で抱え込まずに、周りの人と話すことをお勧めします。気分転換にもなりますし、自分では思いつかない研究のヒントを与えてくれることもあります。また、同期や先輩・後輩など人とのつながりをこれからも大切にしてください。


所属 塩野義製薬株式会社 創薬開発研究所 安全性研究
名前 服部 篤紀
受賞タイトル 小児用医薬品の幼若ラットにおける社会性行動への影響

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Q1 今回の受賞研究の内容、明らかにされた成果をご紹介ください。
本研究では、ラットに対して生後早期にのみ化合物を曝露させることで、離乳後社会性行動に異常が認められ、成熟後も残存することを明らかにしました。ここで用いた化合物には中枢移行性があり、発達中の神経回路に影響していることが示唆されました。
Q2 大学等では、どんな研究をされていましたか?/していますか?
大学では、タンパク質-リガンド間の相互作用を解析するピレンプローブの開発研究を行い、質量分析法の1つであるMALDIの測定法の改良に取り組んでおりました。大学院では、発育期における豊かな環境が新生児低酸素虚血性白質障害に及ぼす影響の研究に従事し、早産児に認められる脳性麻痺のメカニズム解明及び治療法の探索に取り組んでおりました。
Q3 毒性研究を始めたきっかけは何ですか?
「毒」に関する研究室への所属経験が毒性研究を始めたきっかけです。天然物由来の生物活性物質としての「毒」は実験試薬や医薬品としても利用されています。しかし、「毒」と「薬」の境界は曖昧であり、医薬品も用量によって副作用として「毒」が現れることがたびたびあります。薬効と副作用という二面性に興味をもっていました。
Q4 始めた時の感想と現在の印象をお聞かせください。
当初、毒性学という分野を知らず、一般的な薬理学の一部だと思っていました。実際、より幅広い学問であり、薬理学、生理学、生化学、解剖学など専門知識が多岐にわたり、一般的な学問とは別種のものであると感じています。
Q5 これまで毒性研究で面白かったこと、大変だったことは何ですか?
化合物の曝露により様々な影響が見られます。得られた情報から複数の変化を組み合わせて、作用機序を文献や追加実験から論理的に組み立てるのが面白いと思います。一方、変化が見られた中で偶発的変化、ストレス性変化、代謝性変化等化合物起因性ではない変化が多く見られるため、その背景情報の調査や判断は難しく、大変ですが、やりがいがあると感じます。
Q6 今、興味を持っているもの、また将来の夢は何ですか?
医薬品はガイドラインによって評価事項がある程度決まっていますが、検出できていない毒性はまだまだあると感じています。そのような未知なものの発見に興味があり、研究をしていく中でその一端をつかめたらと思っています。
Q7 毒性研究者としてのご自身を支える座右の銘や書籍、人物がいらっしゃればご紹介ください。
自身の研究の第一人者は常に自分であるということを念頭に研究を行っています。これは研究の醍醐味です。多くが解明された今でも未知なものはたくさんあり、やりつくされた分野にも穴があったりします。私はその中で興味がある領域はさらに掘り進めていき、新たな発見をしたいと考えています。それが毒性研究者として強みをもった専門家になるために必要であると感じています。
Q8 恩師/恩人(敢えて1人)に一言お願いします。
研究室の先輩:研究を進めるにあたって、時間の使い方や試験の組み立て方を参考にさせていただいております。研究できる時間は有限であるため、今できることを精査しつつ、研究力向上に向けて精進していきます。
Q9 後輩に一言お願いします。
指導者は誰よりも実験が上手く、効率がよく、経験が豊富です。しかし、手を動かしているのは指導者ではなく自分です。実験の最前線にいるのは実験者ですから、自分の意見や解釈をしっかりと持って、研究を楽しんでください。経験や考えを共有・相談できる方がいるとより一層楽しめると思います。


所属 中外製薬株式会社 トランスレーショナルリサーチ本部 安全性研究部
名前 石田 萌
受賞タイトル ヒトiPS細胞を用いたin vitro胚・胎児発生毒性アッセイの確立と有用性

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Q1 今回の受賞研究の内容、明らかにされた成果をご紹介ください。
ヒトiPS細胞を用いた、in vitro胚・胎児発生毒性アッセイの確立と有用性の検証を行いました。アッセイのプロトコルを確立し、発生毒性陽性/陰性対照化合物を用いて系の予測精度とin vivoデータとの相関を明らかにしました。ヒト特異的な毒性評価と、実験動物使用数の削減に活かしていける系として有用なのではないかと考えています。
Q2 大学等では、どんな研究をされていましたか?/していますか?
寒冷下での体温維持メカニズムについて研究していました。熱産生を担うマウスの褐色脂肪組織では、寒冷下においてマクロファージが浸潤してきます。そのマクロファージが体温維持においてどのような役割を果たしているのかを明らかにしようと取り組んでいました。
Q3 毒性研究を始めたきっかけは何ですか?
入社し、安全性研究部に配属になったことがきっかけです。患者さんに安心して使っていただける薬創りに携わりたい、そのために患者さんに投与される前の非臨床評価にも関わっていきたいと考えておりました。
Q4 始めた時の感想と現在の印象をお聞かせください。
始めた時も現在も、毒性研究の幅広さと臨床でのヒト毒性リスク予測の難しさを感じています。その難しさを感じながらも、臨床研究データの非臨床研究へのフィードバックを行い、より臨床での予測精度を高める非臨床毒性評価に活かしていくことを今よりも行っていかなければならないと考えています。
Q5 これまで毒性研究で面白かったこと、大変だったことは何ですか?
毒性研究を通して、これまで知らなかった生体反応について学べる瞬間は面白いなと感じています。毒性研究は「正常状態」についても深堀できる興味深い分野だと思いますが、逆にこれまで知らない生体反応だからこそ、初めの仮説を立てたり予測を立てたりするステップが大変だとも感じています。
Q6 今、興味を持っているもの、また将来の夢は何ですか?
毒性研究を始めたばかりのため、現在の興味は「毒性全般」です。日々新しい知見に触れ、驚くこと、興味深いことばかりです。将来は自分にとっての毒性研究分野での強みを見つけ、患者さんの安全を守っていける一員になりたいと考えています。
Q7 毒性研究者としてのご自身を支える座右の銘や書籍、人物がいらっしゃればご紹介ください。
「千里の道も一歩から」
まだまだ未熟ですが、焦らず1歩ずつ、自分にできることから楽しくやっていきたいと常に考えています。その上で、自らが携わった安全な薬を世に送り出せたらと考えています。
Q8 恩師/恩人(敢えて1人)に一言お願いします。
社内の先輩へ:iPS細胞はもとより、細胞培養さえほとんど行ったことのなかった私に1から丁寧にご指導いただき本当にありがとうございました。毒性評価やin vitro評価の考え方を教えていただく中で、毒性研究の社会的重要性の一端を学ぶことができたのではないかと感じています。今後も毒性研究者として更に幅を広げていけるよう精進します。
Q9 後輩に一言お願いします。
一緒に毒性研究を盛り上げていきましょう。


所属 花王株式会社
名前 鈴木 将
受賞タイトル RhE based Testing Strategy (RTS)とread-acrossを組み合わせた動物を用いない皮膚感作評価体系

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Q1 今回の受賞研究の内容、明らかにされた成果をご紹介ください。
既存の皮膚感作性代替法の課題として挙げられる難水溶性物質およびpre/pro-haptenの適用を克服したdefined approach (DA)であるRTSと、類似化合物から毒性を予測するread-acrossを組み合わせることで、広い適用範囲を持ち、かつ過小評価なく感作強度の精緻な予測が可能な新規評価体系を構築した。
Q2 大学等では、どんな研究をされていましたか?/していますか?
学部・大学院ともに薬学を専攻し、癌の抗体医薬品の開発を行っていた。
Q3 毒性研究を始めたきっかけは何ですか?
もともと免疫に興味を持っていたことから、学生時代は薬学を専攻し毒性研究に近い分野の研究をしていた。研究を行っていく中で、本演題のような安全性評価手法の開発という分野に興味を持つようになり、大学院卒業後、毒性研究を始めた。
Q4 始めた時の感想と現在の印象をお聞かせください。
毒性評価では一定の考え方は確立されてはいるものの、研究者の考え方によって様々な見解が存在するため、始めた当初は何が正しいのか判断するのが難しかった。一方で現在はそれこそが毒性研究の醍醐味だと思うようになり、研究の種が色々なところに存在し、面白い分野だと感じている。
Q5 これまで毒性研究で面白かったこと、大変だったことは何ですか?
自身の研究は化粧品や日用品といった身近な製品の安全性評価で活用されるものであることから、やりがいを感じやすく、そこが面白い。一方で、評価手法の確立には膨大なデータ取得が必要であり、本研究においてもその点が大変だった。
Q6 今、興味を持っているもの、また将来の夢は何ですか?
興味を持っているものは、認定トキシコロジストなどの毒性分野の資格の取得。将来は感作性評価の分野で世界に名の知れた研究者になりたい。
Q7 毒性研究者としてのご自身を支える座右の銘や書籍、人物がいらっしゃればご紹介ください。
正道を歩む
Q8 恩師/恩人(敢えて1人)に一言お願いします。
大学時代の先輩へ、研究への姿勢・面白さを研究を始めたての私に教えて下さったおかげで、今も楽しく研究を続けられています。学生時代に一緒のテーマで研究ができて本当に良かったです。
Q9 後輩に一言お願いします。
研究は、“何をするか”だけでなく“誰とするか”も大事な要素だと私は考えています。是非自分が成長できると思える方々と研究に励み、あなた自身も周りを成長させてあげられるような研究者になってください。(私もまだまだ未熟ですが、オンリーワンの人材になるべく頑張ります。)


所属 大阪大学大学院薬学研究科 毒性学分野
名前 生野 雄大
受賞タイトル 環境中のマイクロプラスチックの劣化状態を考慮した細胞毒性評価

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Q1 今回の受賞研究の内容、明らかにされた成果をご紹介ください。
環境中のいたるところに存在するマイクロプラスチックは紫外線などの影響で劣化しているため、劣化状態に着目した生体影響評価が必須です。そこで本研究では、環境中の劣化状態を模した標準品の作製法を確立し、生体影響評価の第一段階として細胞毒性試験を実施しました。その結果、劣化ポリエチレンでは細胞毒性が認められ、劣化状態が進行するほど、細胞への影響が大きくなる傾向が示唆されました。以上により、マイクロプラスチックは劣化状態によって生体への影響が異なる可能性を見出しました。
Q2 大学等では、どんな研究をされていましたか?/していますか?
学部、博士前期課程までは大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻に所属し、そこでは、アスベストやPM2.5などの生体外鉱物微粒子の生体影響を評価、予測したいという研究背景のもと、「鉱物微粒子表面上でのポリペプチドの立体構造変化」というテーマに取り組んでいました。より専門的に生物学、毒性学を学ぶ必要性を感じ、博士後期課程から現在の所属に移り、上述のようなマイクロプラスチックの生体影響評価に取り組んでいます。
Q3 毒性研究を始めたきっかけは何ですか?
幼少期から環境問題に関心を持っていました。そんな中、研究室配属時に上記のテーマを選択し、そこから人が利便性を追求して作られたものが人の健康を脅かすということに関心を持つようになりました。
Q4 始めた時の感想と現在の印象をお聞かせください。
今までの研究とは全く異なる分野であったため、不安でした。どの分野でもそうですが、毒性学も奥が深く、もっともっと勉強していく必要があると感じています。
Q5 これまで毒性研究で面白かったこと、大変だったことは何ですか?
自分がこれまで研究対象としてきた鉱物微粒子やマイクロプラスチックは、物質そのものに様々な特徴があります。そのため、これらの生体への影響評価においては、単に毒性学だけでなく、鉱物やプラスチックに対する知識も必要です。このように、分野横断的な研究であるため、さまざまな分野の知識を吸収する必要があり、そこが大変ではありますが、その分非常に面白いと感じています。
Q6 今、興味を持っているもの、また将来の夢は何ですか?
現在研究対象としているマイクロプラスチック問題に関心があります。マイクロプラスチック研究は毒性学だけではなく、環境分野や分析分野などと協力して進めていく必要があります。分野の垣根を超えて研究を推進し、マイクロプラスチック問題の解決の一助となれるよう努力していきたいと考えています。
Q7 毒性研究者としてのご自身を支える座右の銘や書籍、人物がいらっしゃればご紹介ください。
毒性研究者としてだけではなく、さまざまな面で支えてくれているのは両親です。このような自分を産み、育て、日々支えてくれる両親には感謝しかありません。自分の決めた道を信じて背中を押してくれた両親がいたからこそ、今の自分がいると思います。
Q8 恩師/恩人(敢えて1人)に一言お願いします。
全くの異分野であり、薬学、毒性学に無知な自分を研究室に快く受け入れてくださり、日々丁寧なご指導を賜りました堤康央教授に、この場をお借りして感謝申し上げます。
Q9 後輩に一言お願いします。
研究室の後輩たちには、研究ミーティングや実験への助言、発表練習など、さまざまな場面で協力していただき、感謝しています。今後、さまざまな分野で活躍されることを願っています。


所属 岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科 薬効解析学
名前 森本 睦
受賞タイトル 活性カルボニル種メチルビニルケトンの修飾を介したPI3K抑制機構

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Q1 今回の受賞研究の内容、明らかにされた成果をご紹介ください。
活性カルボニル種は、大気中や加工食品、食品添加物など生活環境中に普遍的に存在し、毒性を示すことが知られている一方で、その標的タンパク質や作用メカニズムの詳細は未だ明らかにはなっていません。そこで、環境中に遍在する種々の活性カルボニル種によるPI3K–Aktシグナリングに与える影響を解析しました。さらに、その1種であるメチルビニルケトンに着目し、PI3Kを抑制する詳細な作用メカニズムと生理的役割を明らかにしました。
Q2 大学等では、どんな研究をされていましたか?/していますか?
所属研究室では、親電子物質と呼ばれる、電子が不足し反応性に富んだ性質を示す化合物による生体作用メカニズムの解析を進めています。その化合物の特徴として、タンパク質のシステイン残基やリジン残基などの求核性残基と結合し、タンパク質機能を制御することが知られています。一例として、メチル水銀や1,2-ナフトキノンが挙げられます。その一環として、私は活性カルボニル種に着目しています。
Q3 毒性研究を始めたきっかけは何ですか?
これまでにPM2.5に含まれる1,2-ナフトキノンがPI3K–Aktシグナリングへの作用を介して、がんの増殖に関与するという報告を所属研究室において行っています。そこで、環境中に存在する他の親電子物質もPI3K–Aktシグナリングに作用する化合物があるのではないかと考え、研究を始めました。
Q4 始めた時の感想と現在の印象をお聞かせください。
研究を始めた当初は、化合物による毒性発現メカニズムを解明したところで根本的な解決には至らないこと、つまり最も効果的に毒性を減弱させる方法は原因となる物質の除去であることが明白であることから、その意義を見出すことが困難でした。しかしながら現在では、化合物の「毒性」だけでなく、それが及ぼす生体への未知の「反応」を見つけ出すことで、それを創薬ターゲットなどへの応用性につなげられることなどに気づき、毒性メカニズム研究の興味深さを感じています。
Q5 これまで毒性研究で面白かったこと、大変だったことは何ですか?
実験で得られた結果から次に何をすべきか、どのようなことが明らかにできるか思考している時が最も面白いと感じています。その結果のよしあしに限らず、結果から得られた情報を整理し、考察を行う過程は非常に大変である一方で、研究活動において最も重要なプロセスであると考えています。
Q6 今、興味を持っているもの、また将来の夢は何ですか?
近年のAI技術を活用した、化合物の標的タンパク質についての網羅的な予測技術に強い興味を持っています。現在においても、有毒な化合物種が多く存在することやその標的が多岐にわたることなどの理由から、その詳細な作用メカニズムが解析できていない化合物が多いです。この技術を活用することで、より簡便かつ効率的に解析が進み、毒性学分野の更なる発展が期待できると考えています。
Q7 毒性研究者としてのご自身を支える座右の銘や書籍、人物がいらっしゃればご紹介ください。
「なぜ山に登るのか?」「そこに山があるから」という名言は、エベレスト登頂を目指した登山家のジョージ・マロリーの言葉です。登山家である以上そこに未踏峰があるから挑戦するのは当然だという意味と解釈しており、私は高校時代から部活や趣味として登山を行っていたことから、その言葉に感銘を受けていました。この言葉を研究活動にも当てはめ、疑問や課題に直面した時にそれに挑戦してこその研究者であると考え、何事にも自主的に挑戦してみることを試みています。
Q8 恩師/恩人(敢えて1人)に一言お願いします。
学部3年次の研究室配属から現在に至るまで、ご指導いただいている上原孝先生にこの場をお借りして感謝申し上げます。先生は学生の自主性を非常に評価してくださっており、本研究を始めた当初も、実験結果から考察される以後の研究の方向性について相談させていただいた際、「やってみなよ!」の一言で大きく勇気付けられたことを覚えております。これからもよろしくお願いします。
Q9 後輩に一言お願いします。
毒性学領域は他の研究分野と比較して、例えば獣医学や薬理学、分子生物学、物理化学に至るまで様々なバックグラウンドを持つ他分野の方々と意見交換できることが魅力であると考えています。したがって、多角的な視点から自身の研究を見つめ、これまで考えられなかった新たな解釈や知見を得られることから、学会などで様々な人との交流を楽しんでほしいと思います。


所属 静岡県立大学大学院 薬食生命科学総合学府 衛生分子毒性学分野
名前 佐藤 拓海
受賞タイトル 核内受容体PXRを介した肝がん進行抑制作用の機序解析

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Q1 今回の受賞研究の内容、明らかにされた成果をご紹介ください。
私たちのこれまでの研究から、二段階発がんモデルマウスにおいて核内受容体PXRは肝がんの平均直径等を低下させて、肝がんの進行を抑制する可能性を見出しました。今回の研究では、動物由来サンプルと培養細胞を用いた検討により、PXRは液性因子の分泌に関わる肝星細胞の活性化を抑えることで肝がん細胞の上皮間葉転換を抑制した結果、肝がんの進行を抑制したことが考えられました。
Q2 大学等では、どんな研究をされていましたか?/していますか?
学部時代は、悪性腫瘍に対して高選択的に作用するindirubin誘導体の合成研究を行っていました。いわゆる化学系の出身です。大学院進学後は、核内受容体CARのハイスループット評価系の構築、そして現在は、肝がん治療を目指して、上述の核内受容体PXRと肝がんの関連性について研究を行なっています。
Q3 毒性研究を始めたきっかけは何ですか?
私の大学卒業と当時の指導教員であった宮入伸一先生のご退官のタイミングが同じだったことがきっかけです。せっかくの機会なので外の大学に出てみようと考えていた時に現所属研究室の吉成浩一先生を紹介していただいたことが毒性研究への第一歩でした。
Q4 始めた時の感想と現在の印象をお聞かせください。
分野を大きく変えたため用語から実験までわからないことだらけでした。今までは強い抗がん作用を有する誘導体を合成しようと考えてきましたが、化学物質の開発は薬効の強さだけでなく、安全性なども必要という当たり前なことを再認識しました。毒性学は複合的な分野であるため、あらゆる側面からアプローチすることができる面白い分野だと感じています。
Q5 これまで毒性研究で面白かったこと、大変だったことは何ですか?
毒性研究に限った話ではありませんが、結果が得られない時期は大変ですが、その時期を乗り越えて世界中で自分しか知らない結果を手に入れていく過程は面白いと思います。
Q6 今、興味を持っているもの、また将来の夢は何ですか?
流行りものに弱いので人工知能関連に興味を持っています。将来、自分の研究が誰かの役に立てばと思います。また後進から憧れられて目指される存在になりたいです。
Q7 毒性研究者としてのご自身を支える座右の銘や書籍、人物がいらっしゃればご紹介ください。
Peter Ferdinand Druckerの「間違った問いに対する正しい答えほど、危険とはいえないまでも役に立たないものはない。」
正しくやるのではなく、正しい問いを正しくできるように日々心がけています。
Q8 恩師/恩人(敢えて1人)に一言お願いします。
研究の楽しさを教えてくれた宮入伸一先生には感謝しかありません。色んなお話を聞かせてくれてありがとうございました。落ち着いたらゆっくり食事に行きましょう!!
(当然、吉成先生にもいつも感謝していますよ!笑)
Q9 後輩に一言お願いします。
研究生活は楽しいだけでなくつらいことも多いと思いますが、つらそうなことも行動し始めたら意外となんとかなります。元気に行きましょう。


所属 東京大学大学院薬学系研究科 分子薬物動態学教室
名前 橋本 芳樹
受賞タイトル サル・ヒトcrypt由来消化管幹細胞培養系を用いたEGFRチロシンキナーゼ阻害薬による下痢発症リスク評価の検討

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Q1 今回の受賞研究の内容、明らかにされた成果をご紹介ください。
動物/ヒトcrypt由来の消化管幹細胞培養系(腸スフェロイド/オルガノイド)を用いた薬剤誘発性消化管毒性の新規評価系の構築に取り組んでいます。受賞研究では重篤な下痢の発症が臨床上問題となるEGFRチロシンキナーゼ阻害薬の毒性評価を行い、本実験系にて下痢の発症頻度に対応した細胞傷害性が感度良く観察可能になり、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬の下痢発症リスクの評価が可能になることを見出しました。
Q2 大学等では、どんな研究をされていましたか?/していますか?
医薬品の主要な有害事象である消化管毒性の包括的理解とその定量的予測法の開発を腸スフェロイド/オルガノイドを起点に展開しています。
Q3 毒性研究を始めたきっかけは何ですか?
当研究室では薬物動態研究を背景に、消化管幹細胞培養系を用いた薬物の消化管吸収性の定量的予測法の開発に取り組んでいます。私は腸スフェロイド/オルガノイドを創薬のあらゆる局面に適用可能な系に成熟させる観点から研究の立案を行い、薬剤誘導性の消化管毒性が臨床試験で最も高頻度に発現する医薬品の有害事象でありながらも適切なin vitro評価系が創薬段階で枯渇していることを知り、毒性研究に携わるきっかけとなりました。
Q4 始めた時の感想と現在の印象をお聞かせください。
当初は、抗がん剤をはじめとする薬物が十分な薬効を発揮する上では、消化管毒性の発現は許容せざるを得ないという認識が強かったです。しかしながらある種の薬物では、重篤な下痢の発症が用量制限毒性となり本来の薬効を発揮できていないことや、こうした薬物を腸スフェロイドに暴露した際に、ごく低濃度で重篤な細胞傷害性が惹起される光景を顕微鏡下で目にするにつれ、消化管毒性のリスクを創薬の初期段階に検出可能な方法論を確立することが薬効と毒性のバランスが取れた創薬を実現する上で必須の課題であると考えるようになりました。
Q5 これまで毒性研究で面白かったこと、大変だったことは何ですか?
in vitro毒性研究では、細胞生存率に基づくマクロな傷害性の評価だけに終始してしまう懸念が当初あり、如何にしてヒトへの外挿性の高い予測セットを提示できるか?に困難さを感じていました(今もですが…)。研究を進めるにつれ、腸オルガノイドが消化管上皮を構成するヘテロな細胞集団を反映できる強みを生かし、傷害性以外にもバリア機能や蠕動運動の変動といった消化管機能障害を捕捉しうる系へ成熟可能である点に本実験系の将来性や面白みを感じています。
Q6 今、興味を持っているもの、また将来の夢は何ですか?
化合物の未知の作用に興味があります。実はある種の化合物が思いもよらぬ機序で消化管障害を引き起こすかもしれないといった未知の側面を明らかにできたり、そこを起点に毒性発現の新規分子メカニズムの解明や治療法の実現に貢献できれば面白いですね。
Q7 毒性研究者としてのご自身を支える座右の銘や書籍、人物がいらっしゃればご紹介ください。
「良い時こそ謙虚に。悪い時ほど明るく。」(山本由伸)
Q8 恩師/恩人(敢えて1人)に一言お願いします。
いつも背中を見て勝手に実験のモチベーションを頂いております。今後ともよろしくお願いいたします。
Q9 後輩に一言お願いします。
実験結果だけではなく、成果を創出するプロセスやそれに至るまでの試行錯誤の過程に楽しさを感じながら研究活動に邁進して頂けると嬉しいです。


所属 東京大学大学院薬学系研究科分子薬物動態学教室
名前 水野 忠快
受賞タイトル 低分子化合物プロファイルデータの作用分離解析による構造類似化合物の相違点の評価

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Q1 今回の受賞研究の内容、明らかにされた成果をご紹介ください。
トキシコゲノミクスのように化合物処理を施した培養細胞のトランスクリプトームデータを対象とし、多数の化合物のデータセットから因子構造を抽出することで、毒性を含む化合物の複合的な作用を分解・数値化する手法を開発しています。受賞研究では同手法にて構造類似化合物の違いを弁別可能であるかの検証に取り組み、ある天然物とその誘導体間の差を見出すことに成功しました。
Q2 大学等では、どんな研究をされていましたか?/していますか?
分子生物学・薬物動態学研究を背景に、データ解析により低分子化合物の多様な作用の理解と活用に努めています。
Q3 毒性研究を始めたきっかけは何ですか?
低分子化合物は認知されていない側面を多く持ちますが、その作用が有害であれば毒性である一方、好ましい作用であればドラッグリポジショニング等有用なものとなります。認識と活用次第なので、低分子化合物を研究する上で毒性研究は必須でした。
Q4 始めた時の感想と現在の印象をお聞かせください。
アイデアを着想した後に文献調査すると、多くの場合は偉大な先達が既に確立しているという点で競争が激しくレベルが高いと感じていました。今でもその印象は変わりませんが、評価方法がばらついていることも多いので調査内容の要約にはより慎重を期しています。
Q5 これまで毒性研究で面白かったこと、大変だったことは何ですか?
解析に基づいた予測が精度良く実験科学的に実証できる瞬間が最高に面白いです。大変な点は解析対象化合物を選定する際に、興味深さだけではなく取り扱いの困難さも評価項目に入れる必要がある点です。
Q6 今、興味を持っているもの、また将来の夢は何ですか?
今も昔も低分子化合物の未知の側面と可能性に興味があります。バーチャルからヒトまでをトランスレーショナル・リバーストランスレーショナルにつなぐことが将来的な目標です。
Q7 毒性研究者としてのご自身を支える座右の銘や書籍、人物がいらっしゃればご紹介ください。
Samuel Smiles, 自助論「天は自ら助くる者を助く」
Q8 恩師/恩人(敢えて1人)に一言お願いします。
研究はもちろんのこと物事の見方、考え方まで学ばせていただいています。引き続きよろしくお願いします。
Q9 後輩に一言お願いします。
やはり未知の探求は面白いのです。


所属 富山大学 研究推進機構 研究推進総合支援センター 生命科学先端研究支援ユニット 分子・構造解析施設
富山大学 学術研究部 薬学・和漢系 ゲノム機能解析研究室
名前 平野 哲史
受賞タイトル タンパク質分解系を指標としたピレスロイド系農薬デルタメトリンによる神経毒性メカニズムの解析

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Q1 今回の受賞研究の内容、明らかにされた成果をご紹介ください。
本研究では、ピレスロイド系農薬デルタメトリン(DM)による神経毒性メカニズムの一端を、細胞内のタンパク質分解を司るオートファジーおよびユビキチンプロテアソーム系という新たな観点から解明することを目的としました。DM曝露によりプロテアソームの活性低下及びミトコンドリアを基質としたマイトファジーの活性化が引き起こされ、両タンパク質分解系の不均衡状態を生じることが初めて明らかになり、これらの成果は、化学物質の神経毒性を評価する上で重要なエンドポイントとして今後活用できるのではないかと考えています。
Q2 大学等では、どんな研究をされていましたか?/していますか?
学部から大学院にかけては神戸大学の農学部、農学研究科にて応用動物学を専攻し、種々のストレスに対する個体レベルの応答に興味をもって研究を始めました。現在は富山大学のゲノム機能解析学研究室にて、さらに研究対象を細胞レベルのストレス応答メカニズムにも広げて研究を続けています。
Q3 毒性研究を始めたきっかけは何ですか?
研究室に配属後、研究テーマを決定するにあたって指導教官の先生とディスカッションを重ねるうちに、「目に見えない」化学物質やストレスが私たちの身体にいかに作用しているかについて、実験により「目に見える」形で明らかにできるところに面白さを感じたのがきっかけです。
Q4 始めた時の感想と現在の印象をお聞かせください。
研究を始めた当初は、既に世に出ている化学物質の毒性影響を調べることに後ろ向きなイメージを持っていたように思いますが、現在は未来を守ることに繋がるポジティブな仕事であると捉え、やりがいを感じるようになりました。また、基礎科学と応用科学、両方の側面を持っている上、医学、獣医学、薬学、農学等さまざまな領域が関連する点で興味深いと感じています。
Q5 これまで毒性研究で面白かったこと、大変だったことは何ですか?
これまでに新たな実験系や手法の立ち上げを多数経験しましたが、論文通りにやって上手くいかないことの方が多く、途方に暮れることが何度もありました。一方で、条件等を工夫しながら上手くいくまで試行錯誤しているプロセスを最も面白いと感じています。
Q6 今、興味を持っているもの、また将来の夢は何ですか?
オミクス解析とバイオマーカーを毒性研究においてどのように活用するかに興味を持っています。また、いつかは自身のラボを持って独自の成果を発信できるようになりたいと思っています。
Q7 毒性研究者としてのご自身を支える座右の銘や書籍、人物がいらっしゃればご紹介ください。
子供のころに何かのテレビで見た「一生の最もすぐれた使い方は、それより長く残るもののために費やすことだ。(ウィリアム・ジェームズ)」という名言に感銘を受けたので座右の銘にしています。研究成果を論文として発表することや学生さんの教育に携わる際のモチベーションに繋がっています。
Q8 恩師/恩人(敢えて1人)に一言お願いします。
神戸大学大学院 農学研究科の星 信彦教授には、学生時代から研究に必要なあらゆる要素をご教授いただき、またプライベートに関してもたくさん相談に乗っていただき本当に感謝しております。まだまだ至らぬ点ばかりですが、先生のような研究者になれるよう今後も努力していきますのでよろしくお願いいたします。
Q9 後輩に一言お願いします。
研究には大変なことだらけだと思いますが、行き詰ったときにこそ、一歩下がって広い視野や別の見方をもって臨んでほしいと思います。また、このような研究の経験はどのような分野であっても役に立つと思いますので、限られた時間を有意義に使って楽しんでいただけたらと思います。


所属 広島大学 大学院統合生命科学研究科 統合生命科学専攻 生命医科学プログラム
名前 田中 美樹
受賞タイトル 微小粒子状物質(PM2.5)曝露による虚血性炎症の亢進と脳梗塞予後の増悪

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Q1 今回の受賞研究の内容、明らかにされた成果をご紹介ください。
大気汚染による健康被害は世界的な懸案事項です。大気中の微粒子(Particle matter、 PM)の生体への影響は専ら呼吸器系が注視されてきましたが、新たに”脳神経系”への影響が示されつつあります。近年、PM高濃度環境下では脳梗塞の予後が悪化するとの疫学的な研究結果が増加しておりますが、そのメカニズムは不明です。私は、実験的脳虚血モデルマウスを用いてPM曝露による脳梗塞予後への影響を解析し、「PM惹起性の神経炎症が脳梗塞の予後悪化に寄与すること」を明らかにしました。
Q2 大学等では、どんな研究をされていましたか?/していますか?
所属研究室の研究テーマは「グリア細胞の脳機能維持に果たす役割の解明」です。そのなかでも私は脳虚血におけるミクログリアの機能に着目し、毒性学・薬理学の両分野から研究を進めています。
Q3 毒性研究を始めたきっかけは何ですか?
高校生の頃、祖父がパーキンソン病に苦しむ姿を目の当たりにして以来、薬理学に興味を持ちはじめました。その後、大学の講義でパラケルススの格言『全てのものは毒であり、毒でないものなど存在しない。その服用量こそが毒であるか、そうでないかを決める』を学んだことをきっかけに「毒性学も面白そう!」と思うようになりました。そして、薬理学・毒性学の両分野の研究が可能な当研究室を志望し、今に至ります。
Q4 始めた時の感想と現在の印象をお聞かせください。
研究を始める前後で最もギャップが大きかったのは『”研究”≠“勉強”』ということです。研究に携わる前は研究と勉強の違いを把握しておらず、研究にも正解があると思っていました。研究を始めた当初は正解のない問いを探求することの難しさに苦しんでいましたが、今ではむしろ、決まったやり方や正解がないという研究の面白さに取り憑かれています。
Q5 これまで毒性研究で面白かったこと、大変だったことは何ですか?
自身で考えた仮説とはまったく違う実験結果が出たときが一番面白かったです(もちろん解釈に困って大変な思いもしましたが…)。凡人の私が思いつく仮説は所詮ただの推測でしかないことを痛感し、生命現象の奥深さを身に沁みて味わいました。
Q6 今、興味を持っているもの、また将来の夢は何ですか?
腸脳軸(Brain-gut axis)や脳-腸-腸内細菌軸(Brain-gut-microbiota axis)に興味があります。これまでは脳のみを対象として脳疾患の病態形成について研究してきましたが、今後は腸も含めて勉強や研究を進めたいと考えています。将来は、今までの専門にこだわらず様々な分野に挑戦することで「知力・体力・胆力」を兼ね備えた人間になりたいです。
Q7 毒性研究者としてのご自身を支える座右の銘や書籍、人物がいらっしゃればご紹介ください。
中島敦の『山月記』に登場する「臆病な自尊心、尊大な羞恥心」という言葉を戒めにしています。この言葉には「自分の実力のなさを恐れるあまりに物事へ挑戦せず、また、一方では自分が優れていると半端に過信するがゆえに周りの人との切磋琢磨を避ける」という意味があります。この言葉を胸に、無駄なプライドは捨てて何事にも挑戦するよう日々心がけています。
Q8 恩師/恩人(敢えて1人)に一言お願いします。
指導教員である石原康宏先生にこの場を借りてお礼申し上げます。これまで多くの先生方にご教授いただきましたが、なかでも、学部3年生の頃から親身にご指導くださった石原先生には感謝の念に堪えません。至らぬ点が多々あったことと存じますが、石原先生には研究面のみでなく社会面や生活面についても大変丁寧かつ辛抱強くご指導いただきました。この度の受賞もひとえに石原先生のおかげです。今後ともどうぞよろしくお願いいたします!
Q9 後輩に一言お願いします。
ただでさえ大変な研究生活ですが、コロナ禍によりしんどい思いをすることも多いと思います。忙しい毎日かと思いますが、食事・睡眠・運動を疎かにせず、人との交流の時間も大切にすることで、こころとからだの健康を第一にしてください。


所属 塩野義製薬株式会社 創薬開発研究所 安全性研究
名前 向井 美穂
受賞タイトル ユーロガイドに準拠したケージでペア飼育したイヌの社会行動解析による薬剤誘発性の精神障害評価の試み

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Q1 今回の受賞研究の内容、明らかにされた成果をご紹介ください。
ユーロガイド準拠のケージでペア飼育したイヌに、ヒトでの重大な副作用として、刺激興奮・錯乱が報告されているジアゼパムを投与し、ビデオ観察を含むイヌ同士及びイヌからヒトへの社会行動観察を実施することで、従来の毒性試験では評価することが難しい、人で報告される精神障害を捉えられるかを検討しました。その結果、従来の試験方法では捉えられなかった興奮及び錯乱を示唆する社会行動の変化が認められ、ヒトの精神障害を捉えられる可能性があることがわかりました。
Q2 大学等では、どんな研究をされていましたか?/していますか?
大学では、ゴルジ体ストレス応答の分子メカニズムの解明に向けて、タンパク質の糖鎖修飾を阻害した細胞で転写が誘導されるタンパク質の同定及びプロモーター解析を、大学院では、TNFR2に対して異なるエピトープを持つ複数の抗体を用いて、エピトープと抗体機能の相関性解析の研究に従事しておりました。
Q3 毒性研究を始めたきっかけは何ですか?
患者様がより安心して治療を受けられるように、副作用を可能な限り軽減できるような創薬開発に貢献できないかと思ったことがきっかけです。
Q4 始めた時の感想と現在の印象をお聞かせください。
始めた頃も現在も一貫して、毒性発現には、薬効薬理、動態及び物性など様々な要因が関与しており、その全ての知識を持って評価をする必要があるため、難しい評価であると思っておりますが、やりがいも感じております。
Q5 これまで毒性研究で面白かったこと、大変だったことは何ですか?
今回発表した研究において、高等動物の社会行動解析を用いた毒性評価は報告がなかったため、イヌの精神障害を評価する方法、基準及び解釈を考えることは難しかったですが、群飼育のイヌの社会行動観察は、予想以上の学びが多く、面白みを感じておりました。
Q6 今、興味を持っているもの、また将来の夢は何ですか?
これから深めていきたい研究でもあるため、今回発表した研究を用いた毒性評価について興味が尽きません。そのため、今回発表したものとは別の化合物でも研究を実施し、様々な化合物での結果をまとめたいと思っております。将来の夢は、臨床も含めた幅広い知識を持った毒性研究者となり、よりよい創薬に貢献できればと思っております。
Q7 毒性研究者としてのご自身を支える座右の銘や書籍、人物がいらっしゃればご紹介ください。
今まで出会った尊敬すべき方々から学んできたことではありますが、何故?と考え尽す気持ちを忘れずに、基礎メカニズムを常に考えられる人間でありたいと思っております。
Q8 恩師/恩人(敢えて1人)に一言お願いします。
社内の先輩へ:いつも温かく丁寧なご指導をいただき、ありがとうございます。先輩のご指導により、研究を進めることが出来ております。深い洞察力及び広範な知識を持つ先輩のようになりたいと常々憧れており、目標とすべき方に指導していただけること、非常に恵まれていると思っております。憧れの姿にいち早く近づけるよう精進したいと思っておりますので、今後とも、ご指導のほどをどうぞよろしくお願いいたします。
Q9 後輩に一言お願いします。
様々な専門性を持つ方々が、多様な毒性学研究をされており、色々な観点からの意見交換が出来るからこそ、新たな発見及び発想が生まれ、毒性学研究は奥深いと思っております。まだまだ精進中の身ではありますが、皆様と一緒に今後とも毒性研究を深めていければと思います。


所属 ライオン株式会社 研究開発本部 安全性科学研究所
名前 相澤 聖也
受賞タイトル ヒト3次元培養口腔粘膜モデルを用いる口腔粘膜刺激性試験代替法の開発
-刺激性/無刺激性区分のためのクライテリアの検証-

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Q1 今回の受賞研究の内容、明らかにされた成果をご紹介ください。
ヒト3次元培養口腔粘膜モデルを用い、口腔粘膜における化学物質の刺激性/無刺激性を区分するために設定した判定基準(細胞生存率60%)の妥当性が高いことを報告しました。既知の眼刺激性試験データを活用し、評価サンプルの判定結果が高い相関性を示すことを実証しました。また、被験物質を曝露したヒト3次元培養口腔粘膜モデルの細胞生存率の数値低下が、層状構造の減少によることを組織学的に確認しました。
Q2 大学等では、どんな研究をされていましたか?/していますか?
食品に含まれる抗変異原性成分の探索を行っていました。化学物質の中には遺伝子の復帰突然変異を誘発して発がんに関与するものがありますが、この作用を抑制する成分を身近な食品から単離し、そのメカニズムを解明するというものです。成分の単離に関連する実験と、単離した成分の活性を調べるための実験の割合は半々くらいでしたが、その後現在の勤務先に就職して安全性部門に配属された際、巡りあわせを感じたのを覚えています。
Q3 毒性研究を始めたきっかけは何ですか?
学生時代に「健康維持に寄与できる研究に携わってみたい」という思いで研究室を選んだことが、毒性学に関連する研究を始めるきっかけになりました。その後入社して安全性部門に配属になり、現在の研究を行っています。お客様に安心して製品を使っていただくために必要不可欠な分野であり、日々やりがいを感じながら研究を推進しています。
Q4 始めた時の感想と現在の印象をお聞かせください。
始めた当初は、毒性というと「ハザード」のイメージの方が強く、1つ1つの化学物質がもつ有害性の方に意識が向く傾向にありましたが、現在は「リスク」に対する意識づけもできるようになってきました。研究テーマを推進したり、製品や原材料の安全性評価を実施したりする中で、製造規制や使用規制にも密接に関連する学問であることを、身に染みて実感しています。まだまだ学ばなければいけないことが多いと感じる今日この頃です。
Q5 これまで毒性研究で面白かったこと、大変だったことは何ですか?
試験法開発にあたり、複数の企業と協働して研究を推進することに面白味を感じます。開発研究の場ではメーカー同士がシェアを競いますが、安全性部門ではそうではありません。設定した試験条件の妥当性を検証するため、複数施設による検討が必要になるからです。バックグラウンドが異なるため、コンセンサスを得ながら研究を推進するのは大変な面もありますが、企業間の垣根を超えて試験法開発に挑むことに強い魅力を感じています。
Q6 今、興味を持っているもの、また将来の夢は何ですか?
生活の中の「全自動化」がどこまで進むかについて興味を持っています。すでに掃除機や洗濯機をはじめ、全自動タイプのものが実用化されており、遠くない将来に歯磨きも全自動で行えるようになるかもしれません。それらが日常生活に定着するためには、「安全に使用できる」という条件が必要不可欠になります。そういった画期的な製品が開発された時、用途に応じ安全性をしっかりと評価できる研究者になることが、将来の夢です。
Q7 毒性研究者としてのご自身を支える座右の銘や書籍、人物がいらっしゃればご紹介ください。
「凡事徹底」という言葉を大切に、日々研究に向き合っています。1回の実験の中には様々な工程がありますが、その1つ1つを毎回均一かつ丁寧にこなすことを心がけています。また、書籍としては、「トキシコロジー(第3版)」を常に愛用しています。業務の中で用途が多岐に渡る化学物質の安全性評価を担当していることもあり、幅広い分野の知識をカバーできる点に助けられています。
Q8 恩師/恩人(敢えて1人)に一言お願いします。
お世話になった先輩へ:「歯に衣着せず」が信条だった先輩のおかげで、ここまで研究を続けることができました。1つ1つの結果に対し、なぜそうなったかをとことん深掘りして考える習慣をつけるきっかけをくれたことに、とても感謝しています。なお、これまでご指導いただいた先生方に恵まれてきたため、恩師を敢えて1人選ぶことはできませんでした。素晴らしい先生方との巡り合わせに、改めて感謝します。
Q9 後輩に一言お願いします。
毒性学は、人や環境の安全を守り続けることに不可欠な学問です。科学技術は進展を続け、そのスピードはさらに速くなっていくと思われます。そこから生み出される新たなリスクに対し、様々な切り口から科学的にアプローチしていくべき立場にいるのが、我々毒性研究者なのかもしれません。私自身もまだまだ若輩者ではありますが、人や環境が科学と共存し続ける未来のため、世代を超えて互いに切磋琢磨していきましょう。


所属 東北大学大学院農学研究科動物生殖科学分野
名前 佐々木 貴煕
受賞タイトル アセフェートの発生-発達期慢性ばく露による成熟後のマウス行動影響と腸内細菌叢の解析

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Q1 今回の受賞研究の内容、明らかにされた成果をご紹介ください。
我々は近年注目されている「脳腸相関」の考え方から、発生-発達期における化学物質の有害作用は中枢神経系のみならず、腸内細菌叢まで及ぶのではないか、と仮説を立てました。そして、アセフェート(有機リン系農薬)の発生-発達期ばく露が、成熟後の行動異常および腸内細菌叢のかく乱を惹起することを明らかにしました。さらに、これらの結果には相関関係が示唆され、用量依存的な影響はみられないこと、雌よりも雄の方が強く影響を受けることが示されました。
Q2 大学等では、どんな研究をされていましたか?/していますか?
主に、発生-発達期を対象とした化学物質ばく露影響の解析を行っており、発達段階(ばく露時期)・性・用量の差といった要素による影響の違いを捉えるべく、研究を進めています。
Q3 毒性研究を始めたきっかけは何ですか?
幼少期は自然や動物を愛する子どもだったので、既に環境汚染や野生動物の絶滅といった地球規模の問題に関心を持っていました。しかし、当時は数々の問題が及ぼす生物への影響や、具体的な対応策についての情報が十分とは言えなかったため、モヤモヤした気持ちを抱えていたのを覚えています。この出来事は長らく私の深層意識の中に潜んでいたのですが、思い返してみると、現在の毒性学に対する興味の根幹を成しており、毒性研究を始めたきっかけになったのではないか、と感じています。
Q4 始めた時の感想と現在の印象をお聞かせください。
発達神経毒性の研究を始めたのは修士課程からで、当初はただ漠然と「毒性学の研究がしたい」と考え、現在の研究室へ進みました。その後、毒性学が非常に学際的な分野であること、我々の日常生活と密接に絡んでいることを知った私は、毒性学の放つミステリアスで奥深い魅力に惹きつけられることとなったのです。現在では、さらなる技術の習得を目標とし、社会のニーズに対して自身の研究成果がどのような形で貢献できるか、ということを意識して取り組んでいます。
Q5 これまで毒性研究で面白かったこと、大変だったことは何ですか?
かなり予想に反する結果が得られた際、失敗したのか…と落ち込んだことがありました。しかし、自分なりに結果を解釈して原因を探ったところ、研究テーマをさらに膨らませる発見である可能性が見えてきたのです。それ以来、毒性発現における点と点が結びつく感覚が忘れられません。一方で、毒物を投与しても、必ず毒性が発現するわけではない場合もあり、モデル動物の作出に苦戦しています。
Q6 今、興味を持っているもの、また将来の夢は何ですか?
神経系・免疫系・内分泌系は、相互的なネットワークを形成しているため、単一システムの破綻によって、他のシステムにも波紋を広げることが予想されます。したがって、神経免疫や神経内分泌の観点を含めた統合的な影響評価、ならびに、徐々に顕在化してくる障害を緩和することに興味があります。将来の夢は、自身の研究の先に、波及性のある大きなイノベーションを起こすことです。
Q7 毒性研究者としてのご自身を支える座右の銘や書籍、人物がいらっしゃればご紹介ください。
「日本の細菌学の父」と称される北里柴三郎の、研究者としての人生観に感銘を受けています。また、大学院へ進学して半年ほどの期間ではありましたが、私に実験のいろはを教えて下さった国立衛研・毒性部の齊藤洋克先生は現在でも良き相談相手であり、私の道しるべのような存在です。
Q8 恩師/恩人(敢えて1人)に一言お願いします。
毒性学について素人だった私に懇切丁寧な御指導をくださり、多くの障壁を共に乗り越えて参りました、指導教官である種村健太郎先生に心から感謝申し上げます。今後ともよろしくお願いいたします。
Q9 後輩に一言お願いします。
ひたすら実験に打ち込む姿勢も大切ですが、他者との交流によって視野を広げることも忘れないでください。特に、近年では研究の道を志す学生が減少していますが、その中でも良きライバルとなるような、切磋琢磨し合える同世代の仲間を見つけて欲しいと思います。ぜひ、自分だけの個性的な作品(研究成果)を生み出しましょう!


所属 東北大学大学院薬学研究科 衛生化学分野
名前 山田 侑杜
受賞タイトル DNA損傷様式によって異なるトランス脂肪酸の細胞死シグナル促進機構

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Q1 今回の受賞研究の内容、明らかにされた成果をご紹介ください。
トランス脂肪酸(TFA)は、トランス型の炭素間二重結合を有する脂肪酸の総称で、生体内では合成されず、加工食品などの摂取を通して体内に取り込まれます。これまで多くの疫学研究から、循環器系疾患、神経変性疾患などとの関連が指摘されてきましたが、詳細な発症機序はほとんど不明でした。我々はこれまでに、その発症分子メカニズムの一端として、TFA関連疾患の発症・進展に深く関わるDNA損傷に着目した解析から、DNA二本鎖切断誘導剤であるドキソルビシンを処置した細胞における、TFAの細胞死促進機構の詳細を明らかにしました(Scientific Reports, 10(1), 2743: 2020)。本研究では、DNA損傷の多様な様式間での細胞死促進機構を比較したところ、DNA鎖間架橋誘導剤であるシスプラチン処置時には、全く異なる分子機構で細胞死促進が起きることを見出したため、詳細に解析を行いました。
Q2 大学等では、どんな研究をされていましたか?/していますか?
学部時代は、現在のテーマとは全く異なりますが、ヒトiPS細胞の成熟肝細胞への分化誘導法の確立による薬物毒性評価系の構築を目指し、肝成熟過程における薬物代謝酵素の発現制御機構の研究をしていました。これまでに報告されているヒトiPS細胞由来の分化肝細胞は成熟肝細胞の遺伝子発現パターン・機能の部分的な模倣しか達成できておらず、薬物代謝能は著しく低く、毒性評価への実用性が低いというのが現状でした。紆余曲折を経て、現在は毒性評価系の構築ではなく、上記のような実際に生体に影響を及ぼす具体的な毒性分子の毒性発現機構の研究を行っています。
Q3 毒性研究を始めたきっかけは何ですか?
特段きっかけはなかったのですが、私は元々細胞内シグナル伝達に興味がありました。生命科学において、細胞内シグナル伝達は非常に複雑で巧妙な分子ネットワークにより制御されており、生命現象の奥深さが詰まっていると言いますか、非常に魅力的に感じ、それらの解明に携わりたいと思っていました。非常に理屈にこだわる性格だったので、医薬品や化学物質の作用・副作用発現機構等を理論的に分子レベルで解明したいと考えていたら、毒性研究に行きついていたという感じです。
Q4 始めた時の感想と現在の印象をお聞かせください。
毒性学という分野には、最初は医薬品や環境化学物質の副作用・悪影響を検討するくらいのイメージしかありませんでした。ですが、iPS細胞の分化誘導法の研究に始まり、これまでの研究を通して、実際は薬理学や生化学、遺伝子工学、有機化学などの極めて広い領域を融合した学際的な学問であるということをよく感じています。毒性研究は多岐にわたる実験を経験でき、楽しみながら実験することを心掛けています。
Q5 これまで毒性研究で面白かったこと、大変だったことは何ですか?
全体的に面白くて、全体的に大変でした。ラボ配属当初は、薬剤師国家試験のために勉強していた実験の理論・原理などを実際に自分の手で再現し、データが取れていくことにすごくウキウキしていました。毒性研究は幅広く多様な実験を体験できます。ですがその一方で、繊細な作業が求められる実験が多く、失敗したり再現性がなかなか取れなかったりと、たくさん苦労しました。
Q6 今、興味を持っているもの、また将来の夢は何ですか?
自分の研究とは全く関係がありませんが、「宇宙工学・惑星科学」に興味があります。高校の頃にはロケット甲子園という大会にも出場したことがあり、生物系の学問から離れた領域を学ぶことは新鮮で面白いです。将来は、自身の領域にとらわれず、分野横断的な幅広い視野と教養、豊かな発想力・柔軟性を持ち合わせた研究者になりたいです。
Q7 毒性研究者としてのご自身を支える座右の銘や書籍、人物がいらっしゃればご紹介ください。
座右の銘等は特にありません(笑)。日々の研究において、親身にご指導・サポートをしてくださる、現所属研究室の松沢 厚先生、野口 拓也先生、平田 祐介先生には、心から感謝しており尊敬しています。先生方に加え、ラボのメンバーもみんな向上心が高く、切磋琢磨し合える恵まれた環境に感謝しつつ、それを支えに日々研究をがんばっています。
Q8 恩師/恩人(敢えて1人)に一言お願いします。
私が学部時代に初めて研究室に配属になった際、この道に進むきっかけをくださり、また、たくさんのご指導をしていただいた永田 清先生には、心から感謝しています。研究者としてまだまだ発展途上の未熟な学生ではありますが、残りの博士課程をかけてさらに成長し、また先生にお会いできるのを楽しみにしています。また先生の家でBBQしたいです。
Q9 後輩に一言お願いします。
健康第一ですね。健康第一で、これからも切磋琢磨し合いながら頑張りましょう!


所属 千葉大学大学院 医学薬学府 生物薬剤学研究室
名前 池山 佑豪
受賞タイトル アセトアミノフェン肝障害発症における血小板でのミトコンドリア透過性遷移の関与の可能性

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Q1 今回の受賞研究の内容、明らかにされた成果をご紹介ください。
薬物性肝障害は様々な細胞が相互作用することで発症すると考えられ、中でも血小板が近年注目されています。本研究では血小板でのミトコンドリア透過性遷移(MPT)が肝障害発症に関わるという仮説を立て、本仮説を検証しました。その結果、血小板におけるMPTが原因因子とは特定できませんでしたが、骨髄由来細胞のMPTが肝障害に関わることを示す重要な知見が得られました。
Q2 大学等では、どんな研究をされていましたか?/していますか?
所属研究室では、「血液肝臓間相互作用を加味したミトコンドリア毒性評価系の構築と肝障害機序の解明」というテーマで研究を行っており、肝臓の毒性が血液細胞での現象に起因するのではないかという仮説の下、研究を行っております。
Q3 毒性研究を始めたきっかけは何ですか?
医薬品は人を治すために開発され、それに携わりたいという気持ちで薬学部に入学しました。その後大学の講義で、その対照的な位置にある毒性というものの研究を知り、興味を持ちました。
Q4 始めた時の感想と現在の印象をお聞かせください。
始めた時にはなんとなく「毒性分野」という研究をイメージしていました。しかし、研究を進めていくうちに、化学・薬物動態・生化学すべての知識を必要とする総合的な分野であり、とても複雑な印象を持ちました。常に知識不足を痛感しますが、それとともに毎日新鮮な気持ちで挑むことができています。
Q5 これまで毒性研究で面白かったこと、大変だったことは何ですか?
今まで、見られていなかった現象を確認できた時はとても面白いと感じます。ですが、その結果を過去の報告と照らし合わせて仮説の修正を行うことはとても緻密さが求められ、大変です。
Q6 今、興味を持っているもの、また将来の夢は何ですか?
研究とは関係ありませんが「心理学」に興味があります。将来の夢は、自分の研究を薬物性肝障害の予測および発症前診断に活用したいと考えています。
Q7 毒性研究者としてのご自身を支える座右の銘や書籍、人物がいらっしゃればご紹介ください。
私は、研究において「社会への寄与」を考えることによって支えられています。この考えは、研究が単なる知的好奇心に収束しない上でも重要です。それだけではなく、患者さんのためにできることを想像することで研究に対するモチベーションの維持につなげられています。
Q8 恩師/恩人(敢えて1人)に一言お願いします。
指導教員である伊藤晃成先生にこの場を借りてお礼申し上げます。研究テーマ立ち上げの際には、厳しい意見をくださる一方で、自分のやりたいことを後押ししてくださいました。受賞するとともにこの研究で成果をあげることができたのはひとえに伊藤先生のおかげです。今後ともご指導よろしくお願いいたします。
Q9 後輩に一言お願いします。
今行っている研究は、研究成果に加えて研究過程での努力が人生の糧になると思います。楽しいだけではないと思いますが、自分を信じて頑張ってください。
 

 
所属 東北大学大学院薬学研究科 代謝制御薬学分野/ 東北医科薬科大学薬学部 環境衛生学教室
名前 星 尚志
受賞タイトル ミクログリアにおけるメチル水銀によるオンコスタチンM発現誘導機構

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Q1 今回の受賞研究の内容、明らかにされた成果をご紹介ください。
我々のこれまでの研究によって、メチル水銀が脳内免疫担当細胞であるミクログリアに作用すると、サイトカインであるオンコスタチンM (OSM) が放出され、メチル水銀毒性を惹起することを示してきましたが、その詳細なOSM発現誘導機構は不明でした。今回の研究では、培養ミクログリア細胞株を用いた検討により、メチル水銀はASK1/JNK/cJun経路およびJAK1/STAT3経路を活性化させ、それぞれ活性化されたcJunとSTAT3が共役することで、その下流でOSMの発現を誘導することを明らかにしました。
Q2 大学等では、どんな研究をされていましたか?/していますか?
上述した免疫担当細胞であるミクログリアは、定常状態では中枢神経機能の維持に働いていますが、過剰に活性化すると炎症性サイトカインの放出や貪食を介して、神経傷害を増悪させることが知られており、同様にメチル水銀による神経毒性発現にも重要な役割を果たしている可能性がわかってきました。そこで私は、さまざまな分子生物学的手法を用いて、メチル水銀によるミクログリア活性化の分子機構と、それに連なる神経毒性誘導機構を明らかにすることを目指し研究しています。
Q3 毒性研究を始めたきっかけは何ですか?
学部生時代に受講した講義の中で、自然中に存在する低濃度のメチル水銀が、胎児・幼児の発育に悪影響を及ぼすことを勉強しました。メチル水銀が原因である水俣病発症から60年が経過した現在になっても、メチル水銀が及ぼす健康影響が問題視されていること、その毒性発現機構がほとんど不明だということを学び、興味を持ちました。
Q4 始めた時の感想と現在の印象をお聞かせください。
研究室配属後から一貫してメチル水銀毒性発現の分子メカニズムに取り組んでいたため、始めのうちはそういった薬毒物の毒性発現機構を究明することが毒性学だと思っていました。しかし、勉強を重ねる中で、疫学をベースとした研究や種々のインフォマティクスを用いる研究などがあることを知りました。現在は、毒性学が非常に学際的な分野であることを感じながら、自身の研究がどのように毒性学に貢献できるか意識していきたいと思っています。
Q5 これまで毒性研究で面白かったこと、大変だったことは何ですか?
私の研究は、メチル水銀による神経毒性への、神経細胞とミクログリアの細胞間相互作用を評価するために複合培養系である大脳スライス培養の構築からスタートしましたが、従来法ではミクログリアが正確に評価できないという欠点を抱えていました。そのため、スライス作製条件や培地条件などを総当たりで検討しましたが、改良に成功するまで半年以上費やしてしまい、大変な期間が続きました。一方で、培養系構築後はスムーズに検討を進めることができ、非常に楽しく研究に取り組めました。
Q6 今、興味を持っているもの、また将来の夢は何ですか?
自身のこれまでの研究から、脳を中心とする細胞間相互作用に強い興味を持っています。近年の分子生物学技術の発展により、複合培養系や個体でもより詳細な分子レベルでの解析ができるようになりました。メチル水銀の研究においても、これまで培養細胞レベルで示されてきた様々な因子も含めて、生体内での振る舞いや役割を、細胞間相互作用も含めて詳細に解明していきたいです。
Q7 毒性研究者としてのご自身を支える座右の銘や書籍、人物がいらっしゃればご紹介ください。
学部生時代に永沼 章先生が仰っていた、”最短の時間で最大の成果を出す”という言葉がとても印象強く記憶に残っており、日々の研究でも意識するようにしています。仮説を立てたときに、それを立証する方法を複数挙げ、どのようなアプローチがより正確・迅速・簡便に評価できるかを考えて研究に取り組んでいます。
Q8 恩師/恩人(敢えて1人)に一言お願いします。
研究室配属から現在に至るまで、厳しくも温かいご指導をしてくださっている黄 基旭先生に心から感謝して申し上げます。この度、このような賞を受賞することができたのも、ひとえに先生の論理的に研究を進め、深めていくご指導の賜物と存じます。これからも頑張りますのでどうぞよろしくお願いいたします。
Q9 後輩に一言お願いします。
私はまだ学位取得前で研究者としてもまだまだ未熟ではありますが、ぜひとも互いに切磋琢磨し合いながら毒性学を発展させられたらと思っています。


所属 国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 毒性部
名前 齊藤 洋克
受賞タイトル 低用量ペルメトリンの早期慢性ばく露による成熟後の雄マウス行動影響

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Q1 今回の受賞研究の内容、明らかにされた成果をご紹介ください。
ピレスロイド系殺虫剤(ペルメトリン)をモデル化学物質として用い、化学物質の発生-発達期ばく露によって誘発される成熟後の中枢神経系への影響について検討しました。経胎盤、経母乳によってペルメトリンにばく露された産仔を成熟後に解析したところ、神経回路基盤形成への影響(海馬歯状回における新生ニューロンの過剰産生およびアストロサイトの機能不全)が疑われ、学習記憶異常というかたちで行動影響が認められました。
Q2 大学等では、どんな研究をされていましたか?/していますか?
現在の研究にも関係しますが、実験動物としてマウスを用いて、身近に存在する化学物質の「発生-発達期(早期)」への、環境中を想定した「低用量」ばく露によって成熟後に顕在化する生体影響に着目して研究を行ってまいりました。その中でも、複数の行動試験を組み合わせた情動認知行動影響解析、および形態解析を主とした脳組織、生殖組織への影響評価を中心に行っておりました。
Q3 毒性研究を始めたきっかけは何ですか?
生物学の勉強をしている過程で、精巧に形づくられ、厳密に制御されているはずの生体が、時として化学物質によって、将来が変化してしまうほどの影響を受けてしまうということを知り、生物の未だ解明されていないブラックボックスの部分に非常に興味を惹かれ、この分野についてより深く知りたいと思ったのがきっかけです。
Q4 始めた時の感想と現在の印象をお聞かせください。
経口投与1つにしても、動物へのストレスを最小限に抑えるため、高い精度の技術が求められます。また、毒性影響において多臓器連関を考えるには、想像よりもはるかに知識が必要となり、はじめは圧倒されてしまったというのが正直な感想です。しかし現在は、知識・技術を吸収するほどに視野が広がり、非常にやりがいを感じております。始めたときには想像もしなかった毒性研究の奥深さを知るとともに、私たちの日常生活にも非常にかかわりのある大切な分野であるという印象です。
Q5 これまで毒性研究で面白かったこと、大変だったことは何ですか?
マウスを用いて行動試験を行っていますが、例えば、化学物質のばく露時期、雌雄での影響の違いを示唆するような、予想とは異なる思わぬ発見があるときは、やはり面白いです。また、行動毒性を評価する際には、実験の性質上、同じ条件(温度、湿度、環境音等)、高い精度で、実験環境をコントロールするところからはじまり、マウスの扱いにも細心の注意を払って実験を行わなければならないため、始めたころは非常に苦労しました。
Q6 今、興味を持っているもの、また将来の夢は何ですか?
国立衛研・毒性部では、身の回りに存在する健康や環境に害を及ぼす恐れある様々な物質(化学物質、食品、医薬品等)の、ヒトに対する毒性を予測・評価し、未然に防ぐ提案をするための研究を行っております。これに関連して、個人的には、化学物質の発生-発達期ばく露により、成熟後になぜ脳高次機能への影響が生じてしまうのか、加えて、顕在化する行動影響の雌雄差、個体差など、従来の評価系の補強となるような、異なる視点からの影響評価に興味を持っております。将来の夢は、自分だからこそ明らかにできたという、後世まで残るような学術的にインパクトのある研究をすることです。
Q7 毒性研究者としてのご自身を支える座右の銘や書籍、人物がいらっしゃればご紹介ください。
常に今の自分を越えるために、「不撓不屈」の精神で研究に取り組んでいます。書籍は、中枢神経系と生殖系の研究を行ううえで、学生時代から使っている、「カンデル神経科学」、「Histological and Histopathological Evaluation of the Testis」、国立衛研で研究を始めてから紹介していただいた、「Casarett & Doull‘s Toxicology」が、私にとって支えになっています。また、毒性学の奥深さ、毒性学において必須の観点ともいえる「網羅性」の大切さを説いてくださる国立衛研・毒性部部長の北嶋聡先生は、私の支えであり目標としている先生です。
Q8 恩師/恩人(敢えて1人)に一言お願いします。
私が毒性学に興味を持ち、この道を選択したきっかけでもある講義をしてくださり、私の学位取得の際の指導教官でもありました東北大学大学院・農学研究科・動物生殖科学分野教授、種村健太郎先生にはたいへんお世話になりました。学部4年時から博士後期課程修了に至るまで、終始懇切な御指導を頂けたこと、改めて御礼申し上げます。今後ともよろしくお願いいたします。
Q9 後輩に一言お願いします。
私自身、学ばなければならないことが数多くありますが、毒性学は、研究としてのやりがいとともに、ヒトが生活するうえで大切な知識も身に着けることができる学問であると感じています。どの研究でもそうですが、ある現象を見つけ、なぜそうなったのか解明していく過程は心躍ります。そして、とても単純な理由かもしれませんが、好奇心といいますか、純粋に研究が楽しい、という気持ちが研究をすすめる原動力になるのだと思っています。毒性研究をすすめる中で、自身が面白いと思える研究を1人1人が見つけ、みなさんとともに毒性研究をより発展させていければと思います。
 

所属 千葉大学大学院薬学研究院 生物薬剤学研究室
名前 青木 重樹
受賞タイトル HLA多型特異的な薬物性の免疫毒性発症に対する免疫寛容系の関与

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Q1 今回の受賞研究の内容、明らかにされた成果をご紹介ください。
薬物による毒性には個人差が存在し、その一つの要因がヒト白血球抗原HLAです。しかし、HLAの関与する薬物毒性発症メカニズムは十分には明らかとなっていません。そこで私たちはHLA遺伝子の導入マウスを作出し、毒性の再現を試みました。ところが、HLAの導入だけでは顕著な毒性は現れず、抑制性免疫(免疫寛容系)の関与が考えられました。実際に免疫寛容系を除去することで顕著な毒性発現が認められ、今後この動物モデルを用いた毒性メカニズム解明への発展が期待できます。
Q2 大学等では、どんな研究をされていましたか?/していますか?
私が大学生・大学院生のときは、骨代謝に関わる分子メカニズム研究に従事していました。今行っているHLAの関与する薬物毒性研究とは大きく内容が異なっています。しかし、大学院時代の経験が全く役立っていないかというとそうではなく、むしろ今の研究への大きな弾みになっていると思っています。特に、学生時代は遺伝子を扱う研究がメインでしたが、そのように分子レベルで生命現象を扱うトレーニングを多く行ってきたことで、今の分子薬物毒性学的な研究があると考えています。
Q3 毒性研究を始めたきっかけは何ですか?
私は現職に就く前、医薬品医療機器総合機構(PMDA)で審査専門員を務めていました。そこで新規医薬品の審査資料等を見る中で、「なぜ副作用が起こるのだろうか?」「なぜその副作用の発現や程度には個人差があるのだろうか?」と純粋な疑問が生じていました。当然デスクワークのみではそれらの疑問に対して真正面から答えることができません。そこで、今一度ウェットの研究を自ら行うことで毒性メカニズムを分子レベルで解明し、より安全な医薬品供給に資したいと思ったのが動機です。
Q4 始めた時の感想と現在の印象をお聞かせください。
この毒性研究を始めたときはほぼまっさらの状態でしたので、うまくいくのだろうか・そのままポシャってしまうのではないかという不安・心配がありましたが、ある意味新鮮な気持ちで取り組むこともできたのが事実です。そして、構築したマウスモデルが本当にワークするのだと分かったときは正直喜びを隠せませんでした。その後は比較的想定どおりの進展が認められているので、このまま確変状態が続けばいいなと願うばかりです。暗中模索であっても続けることが大事だと思っています。
Q5 これまで毒性研究で面白かったこと、大変だったことは何ですか?
これまでの毒性研究で面白かったことは、研究内容というよりは、研究に至る過程で様々な人とディスカッションしたことです。当初の想定どおり、それほど簡単に動物モデルで毒性が認められるわけではなく、なぜ毒性が生じないのか・なぜ元気なままなのかを議論したことは興味深かったです。大変だったことは、一筋縄ではいかず毒性の奥は深いなと感じたことです。生体はそれほど脆弱ではないということを教えてくれたような気もしますので、それが今後の毒性研究に活きるはずです。
Q6 今、興味を持っているもの、また将来の夢は何ですか?
今私が興味を持っているのは、毒性発症の予測基盤をできるだけ簡便な形で作り上げることに対してです。毒性分野では様々な予測基盤の構築が試みられているとは思いますが、生体内で起きている分子メカニズムにできるだけ忠実に予測できるようになることがベストだと思っています。そして、それが世の中で実際に使われるようになっていくようにすることが将来の夢です。また、毒性学に限らず、「生体がもつ恒常性とは何か?」を研究者人生でできるだけ突き詰めていきたいです。
Q7 毒性研究者としてのご自身を支える座右の銘や書籍、人物がいらっしゃればご紹介ください。
野口英世の「誰よりも三倍、四倍、五倍勉強する者、それが天才だ」は正にそのとおりと思っていて、学生時代から勉強は怠らないようにしてきました。そして、幅広く様々な知識・経験を取り入れることが、ある特定の道を切り拓いていくうえでも大事だと思っています。生まれながらの天才ももしかしたらいるのかもしれませんが、生きている限り日々勉強は怠ってはいけないと感じています。
Q8 恩師/恩人(敢えて1人)に一言お願いします。
学生時代の研究室の教授がよく「意味のないプロトコルなどない」とおっしゃっていて、それを身に染みて感じています。何を行うにも理由を考える癖は忘れず、それがあるからこそ着実に研究が進められているのだと思っています。今さら感は否めないですが、何気ないその一言に感謝しています。
Q9 後輩に一言お願いします。
基礎研究に没頭したいと思う若い人たちが減ってきているように感じる今日この頃です。研究は大変なこともありますが、自分というもの・オリジナリティを前面に打ち出せるアートの世界でもあると思います。また学生さんは、研究をとおして自分の描く世界にどっぷりと浸かれる絶好の機会でもあります。この経験は飛躍的な成長を生むはずです。この貴重なチャンスを有意義に使ってください。
 

所属 武田薬品工業株式会社
名前 久我 和寛
受賞タイトル 心拍変動解析によるサルの薬物誘発性痙攣の予測

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Q1 今回の受賞研究の内容、明らかにされた成果をご紹介ください。
テレメトリーシステムで取得したサルの心拍のデータから薬物誘発性痙攣を予測できるかを、医療AIを研究されている名古屋大学の藤原幸一先生との共同研究により検討しました。今回は少数化合物によるコンセプト検証でしたが新規のバイオマーカーとして活用できる可能性が垣間見えたと考えています。
Q2 大学等では、どんな研究をされていましたか?/していますか?
大学ではアルブミンにポリエチレングリコールを複数結合させてコロイド浸透圧を上昇させ、それを血漿代替物としてラットやマウスに投与してその有用性を評価していました。輸液として体液保持効果はありましたが、一方で安全性に問題があり実用には至りませんでした。この研究の結果をきっかけとして安全性評価に興味を持ち、就職先として選択しました。
Q3 毒性研究を始めたきっかけは何ですか?
入社して安全性部門に配属となったことがきっかけです。それまで薬学にも病理学にも触れたことがなかったため最初はわからないことだらけでした。
Q4 始めた時の感想と現在の印象をお聞かせください。
毒性学という分野をまるで知らなかったため、最初は細胞や動物を用いて医薬品の副作用を検討するくらいのイメージしかありませんでしたが、実際は薬理学や生理学領域から、果ては環境、社会科学まで極めて広い領域をカバーする学問であるということがわかりました。今でも全容はつかめていないと思います。
Q5 これまで毒性研究で面白かったこと、大変だったことは何ですか?
医薬品の開発過程において薬理研究から予測できないような毒性が見いだされた場合は毒性研究者としての腕の見せ所だと思います。実験によって毒性メカニズムを解明して回避法まで見い出すことは創薬において極めて重要ですし、とてもやりがいを感じます。
Q6 今、興味を持っているもの、また将来の夢は何ですか?
革新的で安全な医薬品の創出がもちろん第一の目標ですが、それ以外ですと毒性学領域と他業界・異分野とのコラボレーションにより新しい社会的価値を生み出すことに興味があります。毒性学者の異分野進出はまだあまり多くないように思いますので、面白い掛け合わせがまだまだ残っていると思っています。
Q7 毒性研究者としてのご自身を支える座右の銘や書籍、人物がいらっしゃればご紹介ください。
出典元は複数ありますが、座右の銘は「迷ったら困難な道を行け」です。面倒であったり苦手であったりする選択肢をあえて選ぶことで新たな発見や成長が得られ、結果としてまた新しい道が拓けると思っています。
Q8 恩師/恩人(敢えて1人)に一言お願いします。
大学の先輩:鍛えていただいた飲ミュニケーション力はいつまでも役に立っております(諸刃の剣ですが)。
Q9 後輩に一言お願いします。
科学の発展は日進月歩で、我々の暮らしは日々便利になっていきますが、同時に科学が人や環境へ与える悪影響についても注目されることが多くなっていると感じます。そういう意味では、毒性研究は科学と人とが共存し、発展していくためにこれからますます重要になってくる分野ではないでしょうか。既存の考え方やレギュレーションに囚われず、様々な方向からのイノベーションが生み出されることを期待します。
 

所属 東京薬科大学 薬学部 公衆衛生学教室
名前 中野 毅
受賞タイトル 血管内皮細胞及びマクロファージ様細胞の血液凝固線溶系に対する亜ヒ酸の作用

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Q1 今回の受賞研究の内容、明らかにされた成果をご紹介ください。
本研究は環境汚染物質であるヒ素が動脈硬化症発症の基盤となる血液凝固線溶系の破綻に及ぼす影響を検討したものであり、亜ヒ酸が血管内皮細胞において転写因子NRF2の活性化を介して線溶促進因子のt-PA発現を選択的に抑制し線溶活性を低下させること並びに動脈硬化症の進展に関与するマクロファージにおいては線溶抑制因子のPAI-1及び凝固開始因子である組織因子の発現を増加させることで血液を凝固亢進状態に傾ける可能性を見出しました。
Q2 大学等では、どんな研究をされていましたか?/していますか?
大学では学部生時にヒ素による細胞毒性発現機構に関する研究を行っていました。大学院に進学後は、先に述べた様な動脈硬化症の発症に関与するヒ素の影響を血液凝固線溶系に着目して研究を行っています。大学院への進学直後には動脈硬化症という学部時代と大きく異なる研究テーマへの変更にとても戸惑いましたが実験を行い少しずつ結果が出ると、とても興味深い分野であるということを実感できました。
Q3 毒性研究を始めたきっかけは何ですか?
毒性研究を行い始めたきっかけは特段ないのですが、大学時代に配属になった研究室で初めて毒性研究に触れ合いました。そこで、毒物が毒物であるのには理由が存在し、その理由の解明を自分が世界で初めて明らかにできるかもしれないという点に惹かれてから今まで研究を行っています。また、研究を始めて間も無い頃に学会発表をする機会を頂くことができたのが毒性研究を続けるきっかけになったと考えています。
Q4 始めた時の感想と現在の印象をお聞かせください。
研究を始めた頃には何もわからない、所謂素人の状態なので実験の理由や目的もよく理解できてなかったので、研究=作業のような感覚でした。研究への興味も低かったので研究を続けるモチベーションは高くなかったと思います。今では、研究への意識が大きく変わったと思っています。単純に知識が増えただけではなく、研究の考え方が身についてきたおかげか多くの分野に関心を持つ様になりました。
Q5 これまで毒性研究で面白かったこと、大変だったことは何ですか?
自身の研究が形になった時ももちろんですが、指導していた学生の実験結果が形になり評価して頂けた時が毒性研究を行っていて最も面白かったと感じました。また、大変だったのは人間関係です。所属研究室でも私自身の考え方と大きく乖離した人もいるので、その人の行動で精神的に苦しい思いをすることが多くあったことと自身の性格的な面からそれを相談できなかったことが一番苦しいと感じています。
Q6 今、興味を持っているもの、また将来の夢は何ですか?
これまでヒ素単独での細胞への影響を検討してきたので他の有害金属と複合曝露した時の影響に興味があります。また、細胞を共培養し、細胞同士の相互作用を加味したヒ素の影響の有無を検討してみたいと考えています。将来の夢は自分の研究成果が薬の開発や病態の解明に繋がればいいと考えています。また、できたら私の研究に興味を持ってその内容を発展させてくれる人が現れてくれたらと思います。
Q7 毒性研究者としてのご自身を支える座右の銘や書籍、人物がいらっしゃればご紹介ください。
私が毒性研究者として支えられていると考えているのは、大学時代から、指導をしてくださっている研究室の藤原 泰之先生と高橋 勉先生です。先生方はいつも穏やかで私が研究活動を行う際にはたくさんのサポートをしてくださいました。ダメだった部分を否定するのではなく改善する方法を提案して頂いたおかげで助かった経験がたくさんあります。何度も挫折を経験しましたが、その先生のおかげで研究を続けることができたと考えています。
Q8 恩師/恩人(敢えて1人)に一言お願いします。
私が研究をここまで続けることができたのは、先生が見捨てずに面倒を見てくださったおかげであったと考えています。また、大学、大学院と長い間お世話になったことをとても感謝していますが、お世話になったことに対しての恩義を返しきれていないのが心残りです。大学、大学院と学ぶなかで恩師と呼ぶのに一番ふさわしい存在は先生かと思います。何かあればいつでも微力ながらも尽力致しますのでお声掛けください。
Q9 後輩に一言お願いします。
昔よりも多くのことが明らかになっていて新規の事象を発見するのはとても困難だと思います。過去の研究が絶対に正しいと考え過ぎずに可能性を取りこぼすことのないようにたくさん疑問をもって研究を行ってください。それに加えて頼れる人、信用できる人、相談できる人と一緒に研究を行ってください、自分一人では、どうしても行き詰まる部分や苦しくなる時が来ると思います。そういう時に支えてくれる人が必要かと思います。


所属 大阪大学大学院薬学研究科 毒性学分野
名前 衛藤 舜一
受賞タイトル 獲得免疫系を介した非晶質ナノシリカのハザード同定と物性との連関解析

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Q1 今回の受賞研究の内容、明らかにされた成果をご紹介ください。
ナノマテリアルは、非常に有用な機能を有する画期的な素材であり、我々の日常使用する物品にも多く使用されているものの、未知の生体影響を秘めている可能性も危惧されており、そのリスク解析が喫緊の課題となっています。今回我々は、これまで検証してきた非晶質ナノシリカの事前曝露による、再曝露時の獲得免疫系を介した肝障害増悪というハザードにおける、非晶質ナノシリカの粒子径及び表面修飾の影響を評価しました。その結果、アミノ基、カルボキシル基により修飾された非晶質ナノシリカを前投与しても肝障害増悪が誘導されたのに対し、粒子径については再曝露時のものと等しくなければならないことを明らかとし、今回の受賞に至りました。本研究成果は、肝障害誘導機序解明や、ナノマテリアルの最適デザインにつながる知見となると期待しています。
Q2 大学等では、どんな研究をされていましたか?/していますか?
大学では、非晶質ナノシリカを初めとする、ナノマテリアルの獲得免疫系を介した安全性評価研究を推進しており、上述した受賞研究も、本研究の一部として実施したものになります。学部3年次に現所属分野に配属されて以来、一貫して本研究に従事しており、獲得免疫系を介したハザード同定から始まった研究が、現在ではその発現機序に仮説を立てることができるほど情報が集積したことを考えると感慨深いものがあります。
Q3 毒性研究を始めたきっかけは何ですか?
毒性研究が、身近にありふれている『毒』を正しく理解し、人々の安心、安全を担保する学問であったためです。私は小さい頃より料理が好きでしたが、その中でじゃがいもの芽やナツメグなど、食材でも人体に有害なものがあるということを経験してきました。我々は、そういった毒にも薬にもなり得る物質を過去の経験から適切に摂取していますが、毒性学は、今後創出される様々な素材に対してもその安全性を担保し、人々の生活を守ることができると考え、この世界に飛び込みました。
Q4 始めた時の感想と現在の印象をお聞かせください。
毒性研究を始めたころは、被験物質一つ一つに対して、地道に安全性情報や、その毒性発現経路を明らかにしていくものだとばかり考えていました。しかし近年ではコンピュータの発展に伴い、毒性研究のアプローチにも幅ができてきたように感じています。特に、機械学習を用いた毒性発現予測は、膨大なデータを取得、処理可能な現代に合致した毒性研究のターニングポイントにもなり得る研究だと考えています。
Q5 これまで毒性研究で面白かったこと、大変だったことは何ですか?
毒性発現経路を解明していく段階で、自らの仮説に従ってハザード発現を回避できた時には、非常に嬉しくなります。大変だった(辛かった)ことは、親戚や知人に毒性学分野に所属していると言うと、危険な研究をしていると勘違いされることです。毎度、ヒトの安全を守る研究だと説明していますが、もう少し毒性研究の一般的な知名度が欲しいところです。
Q6 今、興味を持っているもの、また将来の夢は何ですか?
『毒と薬は表裏一体』『薬毒同源』といった言葉にもあるように、毒は量や使い方によっては薬にもなり得ます。まだ発展途上の研究ではありますが、私の見出したハザードを有効活用する術を開発中です。
Q7 毒性研究者としてのご自身を支える座右の銘や書籍、人物がいらっしゃればご紹介ください。
毒性研究者としてではありませんが、「生物と無生物のあいだ」(福岡伸一著)における、『動的平衡』という考え方が、そもそも生物学に興味を抱くきっかけとなりました。本書を拝読したのは高校二年生の頃でしたが、それまでは物理学や数学に執心しており、浅学無知であった私にとっては、生物が常に変化しながらも定常状態を維持しているという考えは非常に斬新で、これを受けて大学では生物系の学部に進学しようと決めました。
Q8 恩師/恩人(敢えて1人)に一言お願いします。
毒性学分野に配属された時から当分野の堤 康央教授には厳しくも温かい叱咤激励を賜り、ここまで研究活動を続けることができました。この場をお借りして感謝申し上げます。堤教授の自主性を重んじる指導方針だったからこそ、様々な経験を積み上げることができ、着々と結果をあげてこられたと確信しています。博士後期課程も残り半分となりましたが、最後まで堤教授の教えを吸収し、成長していきたいと思います。
Q9 後輩に一言お願いします。
後輩には、実験の補佐をお願いすることが多く、時には早朝から深夜に及ぶ場合もありましたが、後輩たちの補助があったからこそ、これまでの研究成果を得ることができました。この場をお借りして感謝申し上げます。卒業後の進路は様々だと思いますが、毒性学分野での経験を活かし、活躍できる場面が少しでもあれば幸甚です。


所属 大阪大学大学院薬学研究科 毒性学分野
名前 坂橋 優治
受賞タイトル Forskolin誘導性のBeWo細胞合胞体化に対する銀ナノ粒子の影響解析

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Q1 今回の受賞研究の内容、明らかにされた成果をご紹介ください。
人工微粒子であるナノマテリアルの開発・利用拡大が進展し、妊娠期間中の母親への曝露も危惧され始めています。しかし、妊娠期ナノマテリアル曝露に関する安全性情報の収集は未だ遅れており、流産や早産といった妊娠結果に対する、ナノマテリアル曝露の影響評価は喫緊の課題です。今回我々は、妊娠維持に重要な胎盤が機能を獲得する過程である細胞合胞体化に焦点を当て、ハザード情報収集を試みました。その結果、合胞体化誘導時に銀ナノ粒子を共処置することで、合胞体化の促進分子Syncytin-1/2の発現量が低下するという新規知見を取得しました。さらに妊娠初期に産生が増大するホルモンであるヒト絨毛性ゴナドトロピンβについても、同様に発現低下が認められるというハザードを見出し、今回の受賞に至りました。
Q2 大学等では、どんな研究をされていましたか?/していますか?
現在は、銀や金、非晶質シリカ等のナノマテリアルをモデルとして、微粒子曝露が妊娠成立や妊娠維持機構に与える影響を解析しています。ナノマテリアルが幅広く日常利用される現状に鑑みると、妊娠期間中の女性は、受精・着床・胎盤形成・胎児の成長という各段階を経て出産に至るまでに、継続してナノマテリアルに曝露されていることが懸念されます。本受賞研究は、この長い妊娠期間おけるナノマテリアル曝露のうち、胎盤形成段階への影響について知見をまとめたものです。
Q3 毒性研究を始めたきっかけは何ですか?
身の回りにあるものは、どんなものでも「毒」になり得ます。それだけ「毒」というものが身近であるにもかかわらず、毒性評価やリスク解析研究は、有効性評価などと比較すると二番手のイメージがあり、世間の関心も薄いと感じます。私は、毒性を正しく理解し、それを世の中へ適切に発信することで、人々の安全を担保していきたいと考え、毒性研究に興味を持ち始めました。
Q4 始めた時の感想と現在の印象をお聞かせください。
毒性研究を始めた学部時代は、カビ毒の毒性評価および治療薬への応用について学び、本来生体にとって有害な毒を有効利用する方法を模索するなかで、毒性学という分野の面白さを感じました。一転、大学院進学後は有用素材であるナノマテリアルのハザード解析を推進しています。以上2つの研究テーマを通じて、改めて「毒性」と「有効性(有用機能)」は表裏一体であると感じており、常に両側面から物事を視る目が重要だと意識させられます。
Q5 これまで毒性研究で面白かったこと、大変だったことは何ですか?
同じ素材の粒子でも、サイズ等の物性が違えば、ハザードも異なるという点は、興味深いと同時にナノマテリアルの安全性研究を難しくさせていると感じます。また大変な点としては、よく「結局ナノマテリアルは危険だから規制すべきなの?」と質問される事が挙げられます。本研究の最終目標は、利点を最大限享受するために、ハザードを誘導しないナノマテリアルを設計することであり、そのために現状不足しているハザード情報の収集および毒性発現経路の解明を推進しています。
Q6 今、興味を持っているもの、また将来の夢は何ですか?
テクノロジーの発展は目覚ましく、次々と新薬や新素材が生み出されています。したがって今後は、毒性評価も、より迅速かつ効率的な実施が求められます。この点、近年開発が進む有害性発現経路(AOP)は、非常に興味深いツールであると考えています。将来的には、ナノマテリアル安全性評価の分野でもAOP開発を進め、粒子の素材やサイズ・表面修飾などから、ある程度の毒性を予測できる評価モデルの構築を目指していきたいと考えています。
Q7 毒性研究者としてのご自身を支える座右の銘や書籍、人物がいらっしゃればご紹介ください。
私は常に「毒性学は未来のための研究」であると意識しています。新薬や新素材の開発の様に、成果をすぐに社会還元していく研究とは異なり、毒性研究とは未来の人々の健康や生活を守るために、今あるリスクを適切に評価し、改善する方法を模索するものであると考えています。前述のように、ナノマテリアルのハザード解析研究は、使用規制を目的に推進しているのではありません。将来的な安全利用を目指し、常に未来を見据えて、日々研究に取り組んでいます。
Q8 恩師/恩人(敢えて1人)に一言お願いします。
現在所属する毒性学分野の教授である堤 康央先生には、日々厳しくも丁寧なご指導を賜り、そのおかげで本学会での受賞に至ることができました。この場をお借りして感謝申し上げます。ここまで濃密な2年半を過ごすことができており、着実に成果を挙げることができています。毒性研究者としてはまだまだ若輩者の私ではありますが、博士後期課程の期間を通して研究者としての素養を身に着けるべく、研究活動に邁進する所存です。
Q9 後輩に一言お願いします。
後輩には、実験補佐や研究ミーティングなど、研究生活の様々な場面で支えてもらっています。一人では、煮詰まることや視野が狭くなることもあるため、忌憚のない意見をくれる後輩の存在はとても頼もしく、私のモチベーションアップにもつながります。この場を借りて感謝申し上げます。どんな仕事でも、チームで同じ目標を目指す機会は、今後も数多あることでしょう。そんな時に、毒性学分野での経験が活かされ、充実した仕事ができることを願っています。

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